研究課題
核-細胞質間の選択的分子輸送の大部分は、運搬体として機能するImportin βファミリー分子によって担われる。しかし、細胞ストレス応答時には、Importin βファミリー分子依存的な輸送の活性が顕著に低下する。一方、代表的な分子シャペロンHsp70は、熱などの細胞ストレス応答時には、速やかに核に移行する。近年、本研究者らは、熱ストレス応答時にHsp70を核に運ぶ、新規運搬体分子Hikeshiを同定し、その輸送経路が熱ストレス時の細胞生存に必須であることを明らかにした。本研究は、このHikeshi依存的輸送経路の分子メカニズムの詳細を明らかにするとともに、ストレス応答による核-細胞質間分子輸送システムの変換機構とその機能を解析することを目的とする。また、その解析を通して、細胞分化や老化等における分子シャペロンの新しい機能理解を目指す。本年度は主に以下のような解析を行った。1. 運搬体分子 Hikeshi と輸送基質Hsp70の相互作用様式を明らかにする目的で、蛍光相関法による解析を行った。細胞抽出液及び生細胞内での相互作用を測定するとともに、温度依存的変化に着目して解析を続けている。2. Hikeshi が輸送する他の基質や新たな制御因子を同定する目的で、酵母ツーハイブリッド法や免疫沈降法などによって解析を行った。幾つかの候補遺伝子の同定に成功し、現在その相互作用の確認を行っている。3. Hikeshi が進化的に保存されているため、モデル生物として線虫を利用し、細胞分化、細胞死、老化等におけるHikeshi輸送経路とその機能を解析することを試みた。線虫におけるHikeshiホモログは機能未知であるが、新規遺伝子クローニングと熱耐性における機能をRNAi法により解析した。線虫個体においても、Hikeshiが熱ストレス耐性に機能している可能性が示唆される結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
HikeshiとHsp70の蛍光相関法による分子イメージングを開始し、細胞抽出液中等での解析を計画通りに進めることが出来た。一方で、生細胞内での解析はまだ条件検討の段階であり、今後の重要な課題として残っている。新しいHikeshi相互作用候補因子を幾つか同定することに成功し、今後は、それらの確認を行うとともに、新しい機能発見に向けて解析を行う。線虫でのHikeshi機能解析は、新規Hikeshi線虫ホモログのクローニングのその基本的機能解析を行った。その後、線虫個体での解析にも移行出来つつある。
様々な手法を用いてHikeshiの機能解析を中心に進める。蛍光相関法を利用して、細胞抽出液中や生細胞での分子イメージング測定 し、正常時とストレス時での運搬体分子Hikeshiをと輸送基質Hsp70の相互作用変化の測定を行い、ストレス応答時の輸送システム変換を時空間的にとらえる。また、生化学的解析により、Hsp70分子シャペロンシステムにおけるHikeshi機能を探り、新しい制御機構の発見を目指す。線虫Hikeshiホモログの機能解析を進めるとともに、線虫個体を用いて寿命や細胞老化等へのHikeshi及びその輸送経路の機能解析を進める。
線虫での解析にやや遅れが生じ、そのための予算を次年度に持ち越した。次年度は、その予算も含めて、線虫解析用器具や試薬類、さらに主に一般的な遺伝子工学用試薬やタンパク質精製用試薬、細胞培養用試薬等に使用する。また、国内外学会発表の旅費等に20-30万円を予定している。
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Mol. Cell. Proteomics
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