研究課題/領域番号 |
23570243
|
研究機関 | (財)東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
吉沢 直子 (須賀田 直子) (財)東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主任研究員 (30344071)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 複製フォーク / 複製ストレス / ES細胞 / 未分化 / AND-1 / Tipin / Rif1 / DNA修復 |
研究概要 |
複製フォーク複合体は複製ストレス応答におけるシグナル伝達カスケードの要であり、上流のシグナルを、下流の複製チェックポイント、DNA修復、損傷バイパス複製の活性化へ橋渡しすると考えられる。本年度は以下の因子について解析を行った。1)Rif1:Rif1 (Rap1-interacting protein) は、動物細胞で複製ストレスに応答した局在を示し(Xuら、2004年)また、胎生幹(ES)細胞の未分化能の維持に必要である(Lohら、2006年)ことが報告されているが、その機構はいまだ未知である。増殖が盛んな細胞では複製ストレスからゲノム安定性を守る機構が重要であり、Rif1がその機能をもつと推定した。まず、Rif1の抗体を2種作製し、複製ストレスを与えたES細胞で損傷マーカーとRif1の局在を解析した所、複製ストレス部位(γH2AX)のごく近傍にRif1がリクルートされることを見いだした。また、Rif1のノックダウンや欠失変異体の過剰発現がES細胞の分化を誘導することを見いだした。現在、Rif1の変異体を作成し未分化能維持に必要な部位の同定を行っている。2)AND-1およびTipin:ES細胞におけるAND-1の発現を調べたところ、未分化能を維持している細胞核特異的に高い発現が見られた。Tipinも同様であった。3)TFII-I:基本転写因子であるTFII-Iは転写活性化能を持ち、癌抑制遺伝子BRCA1の結合因子でもある。共同研究者により、TFII-IはBRCA1やSIRT1のDNA損傷部位への局在に必要であることが示された。本研究では、TFII-IがないとDNA二重鎖切断の相同組換え修復の効率が半分程度に低下すること、TFII-Iの結合タンパクであるDBC1や、BRCA1の下流であるSIRT1のノックダウンでは1/10程度に低下することを見いだした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は停止した複製フォーク近傍に局在するRif1の抗体を作製し、その機能解析を行った。また、フォーク因子のES細胞における動態も観察した。これまでの癌細胞と並行してES細胞を材料に用いることで、複製フォーク因子の未分化細胞での機能、すなわち、複製ストレス応答が胎生未分化細胞で果たす役割についても調べることができると考えている。 当初の計画で予定していた、フォーク複合体の精製と構成因子の変動などの解析は遅れているが、本年度の成果で得られた良質なRif1の抗体を用いることで、複数の構成因子の解析を効率よく進めることができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1)フォーク複合体の精製と構成因子の解析:抗体によるアフィニティー精製と各種クロマトグラフィーを組み合わせ、Tim, Tipi, AND-1, Rif1などを標的にして複合体を精製する。細胞画分や、複製ストレスの有無、時間経過、分化状態など、回収時の条件を変えて複合体を比較する。2)ES細胞未分化能維持におけるフォーク因子の機能解析:RNAiによるノックダウンや、過剰発現を行い、フォーク因子やクロマチン制御タンパク質がES細胞の未分化状態や多能性にどのように寄与するかを解析する。また、ノックアウト細胞に変異体を導入し機能を評価する。3)相同組換え修復におけるフォーク因子の機能の解明:複製フォーク因子や相同組換え修復カスケードに関わる因子群のノックダウンなどを組み合わせて、どの過程にフォーク因子が関与するかを明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究費はおもに実験に必要な物品の購入に使う予定である。具体的には、培養用プラスチックディッシュ、培地、血清、増殖因子、抗体、クロマトグラフィー担体、リアルタイムPCR用試薬、生化学および分子生物学実験用一般試薬、顕微鏡備品、動物飼育費など。
|