研究課題/領域番号 |
23570243
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
吉沢 直子(須賀田直子) 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主任研究員 (30344071)
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キーワード | 複製フォーク / 複製ストレス / 胎生幹細胞 / AND-1 / Timeless / Tipin / Rif1 / DNA修復 |
研究概要 |
複製フォーク複合体はDNA合成に伴いゲノム上に形成されるため、増殖が盛んな細胞で発現が高いと考えられる。昨年度、胎生幹(ES)細胞におけるフォーク複合体タンパク質を調べたところ発現が予想以上に高いという予備的な結果を得た。そこで本年度は体細胞と未分化な幹細胞での発現を比較するため、ともに増殖の早い初代マウス胎児繊維芽(MEF)細胞とES細胞における複製因子やフォークタンパク質の発現量を網羅的に比較した。その結果、ES細胞で 1) 発現が非常に高い(10倍以上)、2) 発現がやや高い(2から数倍)、3) 発現がMEFとほとんど変わらない、という3つのグループに分類された。複製起点に結合するMcmタンパク質は2、GINSは3に分類されたが、フォーク複合体因子であるTimeless, Tipin, AND-1タンパク質は1であることが分かった。このことから、複製関連タンパク質の発現レベルは増殖速度だけではなく細胞の分化段階によっても規定されること、中でもフォーク因子はES細胞での発現が高く、幹細胞の機能維持に未知の役割を担っている可能性が示唆された。ES細胞におけるフォーク因子の機能をさぐるため、AND-1のDNAゲノム上の結合領域をChIP-seq法で調べ、現在データを解析中である。 また、昨年度に引き続きRif1の細胞分化における機能解析を行い、マウス胎児繊維芽細胞でRif1の発現をなくすとiPS細胞の形成能が著しく抑制されることを見いだした。すなわち、Rif1が未分化状態の維持だけでなくリプログラミングにも重要であることが示唆された。Rif1は複製ドメインを制御することが報告されており、Rif1によるクロマチン構造の変換がリプログラミングに何らかの重要な役割をもつ可能性が想定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ES細胞と体細胞における複製因子とフォークタンパク質の発現プロファイルを網羅的に解析し、AND-1, Timeless, Tipinなどが未分化細胞で高く発現しているという新たな知見を得た。また、同様にES細胞で発現の高いRif1タンパク質の機能をより詳細に解析するため、Rif1を条件的に欠損するiPS細胞の樹立なども達成した。また、Tif1 beta 欠損細胞、 Rif1およびTif1 betaのshRNAや、Tipin, AND-1, Tif1 beta 抗体など、研究資材の収集と評価もほぼ完了した。計画していた実際の複合体の精製実験は予備実験の段階であるが、資材や基礎データの準備が整ったため、来年度は効率よく研究を遂行できるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
1) フォーク複合体の精製と構成因子の解析: 抗体によるアフィニティー精製と各種クロマトグラフィーを組み合わせ複合体を精製する。タンパク質によっては弱い結合を保持するために架橋剤を用い、細胞画分や、複製ストレスの有無、分化状態(がん細胞、未分化細胞、体細胞)など、条件を変えて 複合体を比較する。 2)今年度に樹立したRif1 Flox/FloxノックアウトiPS細胞を用いて、リプログラミングに必要な転写因子の発現への影響を解析する。3) Rif1を恒常的に発現する細胞を、Rif1プロモーター領域を標的とするZnフィンガーヌクレアーゼを用いてゲノム改変を行い樹立し、これを用いて分化誘導におけるRif1の役割を解析する。4) 分化やリプログラミングの過程でRif1やAND-1によるクロマチン構造の変換がみられるか、クロマチン相互作用解析(3CおよびChIA-PET法)を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費はおもに実験に必要な物品の購入に使う予定である。具体的には、培養用プラスチックディッシュ、培地、血清、増殖因子、抗体、クロマトグラフィー担体、リアルタイムPCR用試薬、生化学および分子生物学実験用一般試薬、顕微鏡備品、動物飼育費など。
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