細胞運動は様々な生物学的現象において重要な役割を果たしているが、その制御機構は階層的で非常に複雑であるため全貌は明らかになっていない。そこで、私はこれまでに細胞運動に関与する遺伝子の網羅的探索を行い、ホスホリパーゼ D(PLD)及び32種のキナーゼ関連遺伝子を同定した。 まずは、PLDの細胞運動への関与を明らかにするため、前年度に引き続きPLDの産生物であるホスファチジン酸の可視化プローブの作成を進めた。PA結合能を有する酵母Opi20等のPA結合ドメインからなるPA検出プローブを用いて全反射顕微鏡観察を行ったところ、PAの局在を可視化することができた。また、PLD2の1分子解析を行い、細胞膜上のPLD2の挙動(細胞膜上の移動距離と移動速度、細胞膜への結合時間)について検討を進めたところ、各分子間でばらつきの大きい結果が得られたことから、細胞膜上の各分子は周辺環境によって異なる影響を受けている可能性が示唆された。 さらに、セルチップにより得られたキノーム解析結果から32種のキナーゼ関連遺伝子によるパスウェイ解析を試みたが、すべての遺伝子産物を一つのマップに描写するには情報量が十分ではなかった。そこで、情報伝達ハブであり、細胞運動関与遺伝子であるPLD1とPLD2を上記32遺伝子に加え再解析を行った。その結果、2遺伝子を除く30遺伝子を一つパスウェイマップ上に描くことができ、さらに新たな35遺伝子がマップ上に加えられた。また、作成した細胞運動のシグナル伝達経路からEGFR含む5つの受容体型キナーゼを最上流としGRB2、Src、PLD2が各セルイベントへシグナルを伝達するハブである可能性が示唆された。
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