研究課題/領域番号 |
23570247
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
弥益 恭 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60230439)
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研究分担者 |
川村 哲規 埼玉大学, 理工学研究科, 講師 (10466691)
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 脳形成 / 遺伝子ネットワーク / 転写制御 / エンハンサー解析 / 転写調節因子 / GAL4-UAS系 / マイクロアレイ |
研究概要 |
1. 中脳、小脳を誘導する峡部オーガナイザーの発生機構解明に引き続き取り組んだ。前年度、峡部形成遺伝子gbx2の加温誘導実験系及びマイクロアレイ法により、胚内での発現が誘導直後に変動する遺伝子を明らかとしていたが、これらについてGO解析、Pathway解析を行い、発現上昇遺伝子には造血系遺伝子、細胞接着タンパク質遺伝子が多く、発現低下遺伝子には転写調節因子遺伝子が多いことを見出した。また、新たにgbx2誘導後2時間でマイクロアレイ解析を行い、誘導直後の発現変動実験の結果との比較を行った。さらにこれら2通りのgbx2誘導で共通して発現変動が示唆された遺伝子について、WMISH解析及び定量的PCR解析により、結果の妥当性を確認した。 2. 以前に峡部形成への関与が示唆されたsp5遺伝子について、新規技術TALEN法による遺伝子破壊に着手し、TALEN遺伝子の作製に成功した。現在、その有効性について確認を進めている。 3.脳形成の遺伝子レベルでの制御機構解析のため、GAL4-UAS系の導入を進めた。今回は、fgf8aのMHBエンハンサー、emx3の終脳エンハンサーを利用したGAL4系統魚の作製を行った。現在これらのGAL4魚について有効性の確認を行っている。一方、加温誘導可能なGAL4系統魚とUAS制御下にfgf8aをおいた魚の交配により、fgf8aの時期特異的誘導、そして誘導時期特異的効果の観察に成功した。 4.原腸胚期に神経板で発現して峡部形成を制御するpou2について、以前に胚への遺伝子導入法で同定していた転写調節領域の働きを、培養細胞系で検討し、この領域がpou2で自己活性化を受けること、これがオクタマー配列に依存することを確認した。また、この際にpou2はsox3遺伝子と協調的に働くこと、この調節領域DNAの調節能は後方形成遺伝子cdxにより抑制されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. gbx2の制御下にある遺伝子の網羅的同定を目指したマイクロアレイ解析について、新たな条件での発現比較を行った。これにより、gbx2標的遺伝子の理解をさらに深めることとなった。 2. 峡部形成遺伝子の機能解明を目的として新たな遺伝子破壊法(TALEN法)の導入に成功した。本法は脳形成研究における極めて有効な遺伝子機能解析法であり、今後の研究の発展につながると期待される。 3.脳形成遺伝子の機能解明のために、培養細胞系での転写制御解析実験を取り入れ、この解析法を軌道に乗せたのみならず、既に重要な新知見を得ている。 4.GAL4-UAS実験系についても、新たなGAL4系統、UAS系統の開発と利用を進め、この実験系が実際に動き始めている。
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今後の研究の推進方策 |
1. gbx2により発現が制御される遺伝子群の脳形成における機能解析:マイクロアレイ法により新たに同定されたgbx2下流遺伝子が脳形成及びその他の発生過程で果たす機能について、遺伝子強制発現、そして機能阻害等により検討を進める。また、これらの遺伝子の発現調節におけるgbx2の役割を解析する。 2. Gbx2タンパク質の生化学的機能の解析:これまで、Gbx2タンパク質自体の生化学的機能がほとんど知られていないため、胚での強制発現系、培養細胞系でのレポーター解析により、Gbx2分子内各小領域の生化学的性質と活性の検討を行う。特に、組織、細胞の違いにより転写調節機能の違いがあることがこれまでの結果から予想されており、Gbx2の機能に関わる細胞内環境の理解を目指す。 3.脳形成シグナルセンターを形成する遺伝子の発現制御:前年度に引き続き、脳形成シグナルセンター(峡部、神経板前端)を形成する制御遺伝子(gbx2、pax2a、fgf8、emx3、pou2など)の領域特異的エンハンサーについて、胚性癌細胞(P19C6)などの培養系においてレポーター解析を行う。trans因子、cis-エレメントに関し、生化学的解析、ChIP解析、エピジェネティクス解析を行い、得られた結果については胚を用いたin vivo実験で確認を行う。 4. GAL4-UAS実験系の開発:これまで、異なる発現特性を持つGAL4系統、そして各種脳形成遺伝子をUASの制御下においたUAS系統魚を作製しており、これらを活用して脳形成の制御系の解析を進める。また、脳内のニューロンの機能をリアルタイムで検討できるCaセンサー遺伝子(GCaMPなど)をUAS下流につないだ遺伝子導入魚を利用し、ニューロンの分化とその後の機能発達を検討する。特に、これまで研究が遅れ気味であった視床、及び視床下部及びその内部に生じる神経核に注目する。
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次年度の研究費の使用計画 |
基本的にはこれまで予定通りに研究が進んでおり、次年度への持ち越しは少額であるため、次年度の使用計画に大きな変更はない。具体的には以下のように予定している。 1.Gbx2タンパク質の機能解析、そして各種脳形成遺伝子の転写制御の解析を培養細胞で行うため、細胞の維持に必要な培地と血清、遺伝子導入試薬が必要となる。(約30万円)。 2.GAL4-UAS系での解析では各遺伝子導入魚系統の維持が必要であり、そのための費用が必要となる(えさ代、世話のアルバイトの雇用など)。(約20万円)。 3.その他、主として一般的分子生物学実験に使用することを予定している。
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