研究課題/領域番号 |
23570248
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
赤坂 甲治 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60150968)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 棘皮動物 / 五放射相称 / 前後軸 / 背腹軸 / Hoxクラスター / chordin / BMP2/4 / Pax6 |
研究概要 |
従来はウニに偏っていた棘皮動物の体制の研究を、棘皮動物の祖先型を継承するウミシダ、二次的に背腹軸を獲得したナマコに広げ、前後軸・背腹軸形成に関連する遺伝子の発現パターンを解析した。また、ウミシダのHoxクラスターの構造を明らかにする目的で、これまでに構築していたBACライブラリーに加え、BACクローン間をつなぐフォスミドライブラリーを構築した。1.ウミシダの体軸関連遺伝子ウミシダの体の中央にある神経節が、頭部に相当するかを評価するため、頭部中枢神経マーカー遺伝子ホモログの発現パターンを解析した。その結果、体軸の前端部分で発現する頭部中枢神経系マーカーのSix3はウミシダの反口側神経系にある神経節で発現するが、Pax6, Otxは発現しないため、ウミシダの神経節を含む部分は頭部と相同ではないと考えられた。一方、Six3, Pax6, Otxは口側神経系で発現するため、環状神経を含む口側神経系が中枢の役割を担っており、体軸の前部に相当する可能性がある。Hox1,5,7,9/10,11/13cは冠部から腕にかけて、領域特異的に五放射に発現していることが明らかになった。コリニアリティーはないが、Hoxクラスターは冠部の中央から腕の先端に向かう軸のパターン形成にかかわっている可能性が示唆された。2.マナマコの体軸関連遺伝子Hoxクラスター遺伝子、chordin、BMP2/4をRT-PCRにより単離し、幼生期における発現パターンを解析した。Hoxクラスターはウニの幼生期の発現パターンと大きく異なり、消化管に沿ったコリニアリティーが見られた。chordin、BMP2/4は口側(腹側)で発現し、BMP2/4は反口側(背側)でも発現が見られた。成体における発現パターンの解析には至らなかったが、ウニとは異なり、ナマコでは体軸関連遺伝子の発現が保存されていることが予想された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ニッポンウミシダのHoxクラスター全長をカバーするBACクローンのコンティグを作成する予定であったが、クローン間のギャップが大きいと予想され完成には至っていない。(2) ナマコのHoxクラスター構造を解析するため、単一個体から精子を採り、BACライブラリー用のDNAを準備した。 (3) マナマコのHoxクラスター遺伝子群Hox1, Hox5, Hox7, Hox8, Hox9/10, Hox11/13a, Hox11/13b, Hox11/13c、chordin、BMP2/4のcDNAをクローニングした。その他の、体軸関連遺伝子については、ESTを作成して、ESTの情報をもとのクローン化する予定である。(4)ニッポンウミシダ、バフンウニ、マナマコの初期胚・幼生における時間的・空間的発現パターンを解析し、胚と幼生期における前後軸を検討した。ニッポンウミシダ成体については、解析が進んでいるが、バフンウニ、マナマコについては平成24年度に行う予定である。 概ね計画通り研究が進展しているが、ニッポンウミシダのHoxクラスター構造が予想より大きく、苦戦している。マナマコの体軸関連遺伝子の発現解析については、in situ hybridization の条件が整い、今後ESTの情報が得られれば大きく進展すると予想される。バフンウニの成体については、変態させることができる幼生の数に限りがあり、進捗が遅いが、今年度は多数の幼体を得て詳細な発現解析を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
成体では五放射相称の形態をとるなど、体の前後軸、背腹軸についていまだに議論が多い棘皮動物の体制を、体軸関連遺伝子の発現パターンを解析することにより検討する。(1)そのため、祖先型形質をもつウミシダと、二次的に前後軸と背腹軸を獲得したナマコのHoxクラスター構造を解明し、既に明らかになっているウニのHoxクラスター構造と比較することにより、多様な棘皮動物の体制の進化のしくみを理解につなげる。棘皮動物はゲノムサイズが大きいため、Hoxクラスター構造の解明には時間がかかることが予想される。(2)Hoxクラスター構造の解析をする一方で、ニッポンウミシダ、マナマコ、バフンウニの変態期幼生、幼体、成体における前後軸、背腹軸に沿ったパターン形成関連遺伝子の発現解析を行う。従来は、RT-PCRによりホモログの単離を行ってきたが、ウミシダについては卵巣以外に形態形成期のRNAを用い、ESTを行う。また、マナマコについても形態形成期のRNAを用いてESTを行い、ESTの情報を用いて体軸関連遺伝子を単離し、発現パターンを解析する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ニッポンウミシダ及びマナマコのEST作成にかかる消耗品費等に約50万円支出する予定である。残りの約180万円は、遺伝子発現解析の試薬類、プラスチック器具類に支出する予定である。
|