従来はウニに偏っていた棘皮動物の体制の研究を、祖先型を継承するウミシダ、ナマコに広げ、前後軸に関連する遺伝子の発現パターンを解析した。 ①ウミシダの体軸関連遺伝子:ニッポンウミシダの発生過程におけるHoxクラスター遺伝子の発現パターンを解析しHoxクラスター遺伝子の役割について考察した。浮遊幼生期ではOjHox7、OjHox8、OjHox9/10、OjHox11/13aが、前後軸に沿って発現し、変態して五放射相称になると、OjHox11/13a、OjHox5、OjHox1が五放射の反口側環状神経と、環状神経から腕に伸びる神経索で領域特異的に発現することが示された。しかし、反口側神経系におけるOjHox2、OjHox4、OjHox8、OjHox9/10、OjHox11/13aの発現はなく、軸に沿ったコリニアリティーはない。このことから、成体ではHoxクラスター遺伝子は、軸に沿ったパターニングにはかかわらないが、神経系の領域化には関わることが示唆される。ニッポンウミシダに於いても、大規模なHoxクラスター構造の変化が起きていると予想される。 ②ウミシダの神経系に関する研究:幼生および成体の神経系の構造解析を行った。座着幼生期のESTより得られた配列情報をもとに、EmxおよびGbxのクローニングと発現解析を行い、脊椎動物などで頭部神経の領域化に働くこれらの遺伝子が、ニッポンウミシダ浮遊幼生では幼生神経以外の外胚葉および内中胚葉性組織で発現することを明らかにした。 ③マナマコの体軸関連遺伝子:ナマコは棘皮動物でありながら形態学的に明瞭な前後軸、背腹軸をもつ。ナマコでは成体においても、Hoxクラスター遺伝子は消化管におい前後軸に沿った発現のコリニアリティーが見られた。五放射の発現はなかった。このことから、棘皮動物門内においても、Hoxクラスター遺伝子の役割が大きく異なることが示された。
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