研究課題/領域番号 |
23570250
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
信久 幾夫 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (40332879)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | AGM / Sox17 / hematopoiesis |
研究概要 |
本研究は、胎生中期のAGM領域の未分化血球細胞に対するSox17強制発現より生じる細胞塊の特性および形成機構について詳細に検討し、大動脈の血管内皮細胞より未分化血液細胞を生み出すメカニズムを明らかにすることを目的する。平成23年度に実施した研究成果を以下に挙げる。(1) Sox17を強制発現することより得られた細胞塊について、単一細胞の分離による細胞塊の形成などの解析から、単一細胞より細胞塊を形成することを認めた。また、 Sox17導入の細胞塊は、in vitroにおいて少なくとも8回継代しても、細胞塊形成能および未分化性が保たれた。 (2) Sox17導入により得られた細胞塊について抗体染色を行うと、血管内皮細胞のマーカー(CD31)およびc-Kitが細胞塊の一部の細胞で強く発現していた。さらに、造血幹細胞の指標であるSide population (SP)細胞について解析すると、 Sox17発現細胞塊では SP細胞を認め、さらに継代を重ねてもSP細胞が維持された。(3) Sox17導入により得られる細胞塊形成に必要な液性因子を検討すると、Thrombopoietinの重要性を示した。(4) Sox17と同じファミリーに属する Sox7とSox18について胎生期のAGM領域における発現の検討を行うと、胎生 10.5日胚 AGM領域において、大動脈の血管内皮細胞と隣接する血液細胞の細胞塊に発現を認めた。そこで、 Sox7と Sox18をAGM領域の未分化血球細胞に強制発現すると、やはり未分化性の高い細胞塊を生じた。加えて、異なるファミリー分子Sox9とSryを強制発現しても細胞塊は得られなかった。以上の結果より、 SoxFファミリーの強制発現のみで未分化性の高い細胞塊が形成された。(5) Sox17の強制発現の有無による2つの細胞集団の発現プロファイルをマイクロアレイを用いて解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AGM領域で認める未分化血液細胞にSox17を強制発現すると、分化培養条件下においても、未分化な血球細胞が細胞塊状に増殖するという準備研究に基づいて立案した平成23年度の研究実施計画について、全ての実験を実施することが出来かつ仮説に対して良好な結果を得たため。 具体的には、細胞塊形成に関わる液性因子の同定、および細胞塊が単一細胞より形成されること、また胎生期の未分化血液細胞に発現する血管内皮細胞のマーカー蛋白質(CD31)および造血幹細胞のマーカー(c-Kit)の細胞塊における局在について明らかにし、細胞塊が全て均一な細胞ではないことを示した。加えて、 Sox17と同じファミリー分子においても同様な未分化性を保持した細胞塊を形成する一方で、他のファミリー分子では形成しないことを示し、Sox17ファミリー特有の現象であることを認めた。また、 Sox17強制発現により引き起こされる発現プロファイルの変化をマイクロアレイにより解析を行い、細胞塊形成の機構解析について次年度へ足掛かりを得ることが出来た。 また、申請した研究内容について、東京大学および千葉大学との共同研究へ展開しており、さらなる発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた研究結果に基づいて、次年度は AGM領域の未分化細胞に対するSox17強制発現により得られた未分化細胞塊について、Sox17の未分化性を保持する分子機構の解明と得られた未分化細胞塊の生体における長期造血再建の有無について検討を加える。具体的には、(1) AGM領域の未分化細胞に Sox17を強制発現することにより得られた未分化細胞塊について、 Sox17の発現を停止した時に分化誘導が起きるかについての検討(2) Sox17が作用する遺伝子を同定するために、平成23年度に行ったマイクロアレイ解析に加えて Sox17を強制発現した細胞についてChip on Chip解析を行い、 Sox17の作用における発現誘導あるいは発現減少が誘発される確率の高い候補遺伝子の選定を行う(3) (2)で得られた結果に対して、 Sox17ファミリーの結合配列の情報も加えて、Chipアッセイにおける結合の有無の確認および候補遺伝子のプロモーター解析を行い遺伝子発現に及ぼす影響を検討し、 Sox17の作用遺伝子の同定を行う(4) Sox17強制発現細胞の未分化性をより詳細に解析するために、放射線照射したマウスに対する移植実験を行い、長期造血再建能の有無の検討について実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1) AGM領域の未分化細胞にSox17を強制発現することにより得られた未分化細胞塊について、 Sox17の発現を停止による細胞塊形成および未分化性維持に対する影響を検討する。具体的には、Sox17の前後に loxP配列を挿入したコンストラクトを未分化細胞に導入して細胞塊を形成させた後に、Cre遺伝子をレトロウイルスを用いてさらに細胞塊に導入することにより, Cre-loxPシステムからSox17の発現を停止が起こり、細胞塊に対する影響を調べることが出来る。(2) Sox17の作用する遺伝子を同定するためにChip on chipの解析を行う。3xFlagタグを付加した Sox17をAGM領域の未分化血球細胞に導入し、3回継代により細胞を増幅させた後、細胞を固定し Flag抗体により免疫沈降を行う。得られた沈降物に対してPCRを行い、遺伝子のプロモーター領域を集めたチップに対するマイクロアレイ解析により結合遺伝子の同定を試みる。(3) 平成23年度の研究のマイクロアレイ解析により得られた未分化性維持に関わる候補遺伝子と Chip on chipのデーターを比較して、結合の可能性がある遺伝子についてSox17蛋白質結合配列の有無を検討し、AGM領域の未分化細胞に対するSox17抗体を用いたクロマチン免疫沈降による解析およびルシフェラーゼアッセイにより、遺伝子発現に及ぼす影響を検討する。(4) 今までの研究より、Sox17強制発現で生じる細胞塊は in vitroにおける造血能が維持されることを示している。そこで、 Sox17強制発現により得られた細胞塊内に長期造血再建能を示す造血幹細胞が存在するかを検討する。再建能を示す場合は2次移植の解析を行う。
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