研究課題/領域番号 |
23570250
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
信久 幾夫 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (40332879)
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キーワード | AGM / hematopoiesis / Sox17 |
研究概要 |
本研究は、胎生中期のAGM領域の未分化血球細胞に対するSox17強制発現より生じる細胞塊の特性および形成機構について詳細に検討し、大動脈の血管内皮細胞より未分化血液細胞を生み出すメカニズムを明らかにすることを目的する。平成24年度に実施した研究成果を以下に挙げる。 ① あらかじめloxP配列で挟んだSox17遺伝子を GFP遺伝子と共にAGM領域の未分化血球細胞に強制発現することにより得られた未分化性を高く保持した血液細胞塊において、 Cre遺伝子を mCherry遺伝子と共に導入を行った。 GFP遺伝子およびmCherry遺伝子共陽性の細胞すなわち、Sox17の遺伝子発現を停止した細胞について解析を行うと、Sox17強制発現で認めた未分化性の維持が認められなくなり分化が進行することが明らかとなった。以上の結果よりSox17の発現量と血液細胞の未分化性に相関があることが示唆された。 ② 今までAGM領域の未分化血球細胞にSox17遺伝子を強制発現した細胞がin vitroにおいて造血能が高く保持することを示した。そこで、致死量の放射線照射を施したマウスの骨髄内にSox17遺伝子強制発現細胞を移植して、長期造血再建能について検討を行った。その結果、 Sox17遺伝子を導入しない細胞で同様な移植を行ったときに認めない長期造血再建能を、Sox17強制発現細胞においては認めることが出来た。さらに移植する細胞数依存的に、骨髄内における移植した細胞の割合が高くなることを明らかとした。以上の結果よりSox17強制発現細胞が長期造血再建能を保持することを示した。 ③ Sox17強制発現細胞より得たSox17免疫沈降物より増幅したPCR産物について、遺伝子のプロモーター領域を集めたチップに対するマイクロアレイ解析を行い、Sox17が作用する遺伝子の同定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AGM領域で認める未分化細胞にSox17を強制発現すると、分化培養条件下においても未分化な血液細胞が細胞塊状に増殖するという準備研究と平成23年度の研究実施により得られたin vitroの培養条件下で Sox17強制発現細胞は少なくとも8回継代を経ても細胞塊形成能および未分化性が保たれたという結果に基づいて行った平成24年度の研究において、良好な結果を得ることが出来たので、おおむね順調に進展していると判断した。 具体的には、Sox17遺伝子の強制発現によりAGM領域の造血で大動脈血管内皮細胞に認める未分化血液細胞塊をin vitroにおいて形成し、かつ未分化性が保持されている細胞に対して、Sox17遺伝子の発現を停止すると、細胞塊が形成されず血液分化が誘導されることを示し、Sox17の発現量と AGM領域における血液細胞の未分化性に相関があることを示した。さらに、 Sox17強制発現細胞を、放射線照射を施したマウスに移植することにより、 強制発現を行わなかった細胞では得られなかった長期造血再建能を認めることが出来た。また、Sox17強制発現細胞を用いて、Chip on chip解析により、Sox17結合遺伝子の同定を行い、Sox17の作用する遺伝子の候補を得ることが出来た。 また研究内容の成果発表として学会発表3件を行い、現在論文投稿を行っている。さらに昨年度に引き続き、申請した研究内容について、東京大学および千葉大学との共同研究へ展開しており、さらなる進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度および平成24年度に得られた研究結果に基づいて、平成25年度はSox17強制発現細胞について2次移植を行い、生体内でさらなる長期間における造血能について検討を行うと共に、Sox17遺伝子導入における未分化性についての分子機構の解明を引き続き行う。具体的には、 ① Sox17強制発現細胞を移植したマウスの骨髄細胞を用いて2次移植を行い、引き続き成体における造血能について検討を行う。 ② Sox17および同じファミリーの分子であるSox7およびSox18について、AGM領域より得られる未分化血液細胞において発現量を低下させた場合の造血能に対する影響を調べる。 ③ Sox17強制発現細胞を用いたマイクロアレイ解析と Chip on Chip解析の結果を照らし合わせて Sox17の作用する遺伝子の同定を行う。 ④ 胎生中期のAGM 領域より得た血管内皮細胞をフローサイトメトリーにより分収し、Sox17ファミリー分子を強制発現あるいは機能欠失させ、血管内皮細胞に対する影響を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
① Sox17強制発現細胞の生体内での長期にわたる造血再建能を調べるために、Ly5.1発現C57BL6マウスに致死量の放射線照射を行い、Sox17強制発現を施したLy5.2発現C57BL6マウスの胎生10.5日AGM領域より回収した未分化血液細胞を骨髄内に移植する。4ヶ月後、移植マウスより骨髄を回収し、致死量の放射線照射を行ったLy5.1発現C57BL6マウスに2次移植を行い、経過観察を行う。以上の実験の遂行のために、マウス購入費、培養皿などの培養に関わる器具、飼育費、移植した細胞の観察のために使用する抗体、フローサイトメトリーの消耗品に研究費を使用する。 ② Sox17、Sox7およびSox18遺伝子の発現量をAGM領域より得られる未分化血液細胞において低下させるために、shRNAの系を構築する。また、Sox18の遺伝子欠損マウスは異常を認めず生殖も可能であることが報告されているので、Sox18ホモ接合体の胎仔より未分化血液細胞を回収した後に、Sox17およびSox7のshRNAを作用する。以上の実験の遂行のため、マウス購入費、培養皿などの培養に関わる器具、飼育費、細胞分離に用いる抗体、フローサイトメトリーの消耗品に研究費を使用する。 ③ Sox17が作用する遺伝子の同定のために、 Sox17抗体を用いたクロマチン免疫沈降による解析およびルシフェラーゼアッセイを行う。以上の実験の遂行のために、マウス購入費、培養皿などの培養に関わる器具、分子生物学試薬に研究費を使用する。 ④ 胎生中期のAGM 領域より得た血管内皮細胞に、Sox17ファミリー分子を強制発現あるいは機能欠失させ、血管内皮細胞に対する影響を解析する。以上の実験の遂行のため、マウス購入費、培養皿などの培養に関わる器具、細胞分離に用いる抗体、フローサイトメトリーの消耗品に研究費を使用する。
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