研究課題/領域番号 |
23570252
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
熊野 岳 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80372605)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生殖系列 / 転写抑制 / 初期発生 / マボヤ / PEM / 母性局在因子 |
研究概要 |
初期胚の生殖系列では転写が抑制されており、そのことが体細胞系列との分離に重要な役割を果たす。DrosophilaとCaenorhabditisでは、それぞれにユニークな母性局在因子PgcとPIE-1が、pTEFb複合体に結合しRNA polymerase IIのリン酸化を抑制することで、グローバルな転写抑制を行うことが知られる。これまでに、脊索動物であるマボヤの初期胚において生殖系列の転写を抑制する母性局在因子PEMを同定した。23年度は、PEMがどのようにして転写を抑制するのかについての分子機構を詳細に調べたところ、以下のようなことを明らかにした。すなわち、PEMは、上記動物と同様に、pTEFb複合体との結合を介してRNA polymerase IIのリン酸化を抑えることで、生殖細胞系列の転写をグローバルに抑制することを示した。PEMもホヤにユニークな因子であることから、ハエ、線虫、ホヤを含めた幅広い種で、それぞれにユニークな母性局在因子が、pTEFbを介したRNA polymerase IIのリン酸化の抑制という共通の機構で生殖細胞系列での転写を制御することが示唆された。vasaやnanosの遺伝子産物をリクルートすることで生殖質の形成を促すハエのOskやゼブラフィッシュのBucky ballも進化的に新しい因子であり、種を超えて共通で、かつ必須なイベントが、進化的には最近生じた種に固有な因子によって制御されるという制御機構は、生殖系列に特徴的な性質なのかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PEMによるマボヤ初期胚生殖系列の転写抑制機構を明らかにし、進化的にも非常に重要な知見を提示した。この結果は、Current Biology誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
PEMによる転写抑制機構をさらに詳細に解析する。具体的には、PEMがどのようにしてpTEFbとの結合を介してRNA polymerase IIのリン酸化を抑えるのかを明らかにしたい。1)PEMがpTEFbのキナーゼ活性を抑制する、2)PEMがpTEFbのDNA上へのリクルートを抑制する、等の可能性を検討する。そして、その結果をハエや線虫で既に明らかになっている転写抑制機構と比較することで、より詳細な進化的考察を行う。さらに、マボヤの近縁種であるユウレイボヤにおいても、PEMがどのように生殖系列での転写抑制を行うのかを調べ、近縁種間での転写抑制機構についても比較したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
例年通り、コンストラクト作りやタンパク発現等に必要な分子生物学試薬・キットの購入、遺伝子機能阻害に用いるモルフォリノアンチセンスオリゴDNAの購入、その他、各種抗体やホヤの購入に使用予定である。また、学会発表やホヤ採取のための出張旅費に使用予定である。さらに、in situ hybridizationや抗体染色など、蛍光を用いた検出手段の利用が増えてきているため、顕微鏡の蛍光装置の購入を予定している。
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