研究課題/領域番号 |
23570252
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
熊野 岳 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80372605)
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キーワード | 生殖系列 / 転写抑制 / 初期発生 / マボヤ / PEM / 母性局在因子 |
研究概要 |
初期胚の生殖系列では転写が抑制されており、そのことが体細胞系列との分離に重要な役割を果たす。これまでに、脊索動物であるマボヤの初期胚において生殖系列の転写を抑制する母性局在因子PEMを同定し、PEMがpTEFb複合体との結合を介してRNA polymerase IIのリン酸化を抑えることで、生殖細胞系列の転写をグローバルに抑制することを示した。生殖細胞系列では、いずれ生殖細胞の移動や分化のために遺伝子発現を開始しなければいけないので、当該年度は、これまで明らかにしてきたPEMによる転写抑制がどのように解除されて、どのように胚性遺伝子発現が開始するのかを理解することを目的として研究を行った。その結果、1)中期原腸胚期に胚性遺伝子発現が開始すること、2)生殖細胞系列でのPEMタンパク量が発生に伴って徐々に減少し、中期原腸胚期あたりではほとんど抗体染色によるシグナルが観察されなくなったこと、3)PEMの過剰発現により発生に伴うPEMタンパクの減少を抑えた胚で胚性遺伝子の発現が抑制されたことから、発生に伴ったPEMタンパクの減少が胚性遺伝子発現開始の必要条件であることを明らかにした。さらに、PEMタンパクがなくなり転写抑制が解除された環境下で胚性遺伝子発現を促進する転写因子を同定するために、生殖細胞系列に受け継がれる転写因子であるmacho-1の機能阻害を行い、胚性遺伝子発現への影響を見たが、発現が見られなくなるなどの影響は観察されなかった。現在は、生殖細胞系列に受け継がれるもう1つの転写因子であるEtsの機能を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PEMによる転写抑制がどのようにして解除されるのかという問題に対しては、ある程度の示唆を与える結果が得られたが、もう一つの問題である、抑制解除後にどのようにして胚性遺伝子の発現が始まるのかについては、いまだ理解に及んでいないため。
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今後の研究の推進方策 |
以下の2つを大きな柱として解析を進めていく。 1.PEMによる転写抑制機構をマボヤでさらに詳細に解析する。 2.尾索動物における転写抑制機構の進化発生学的解析をする。 1に関して具体的には、PEMがどのようにしてpTEFbとの結合を介してRNA polymerase IIのリン酸化を抑えるのかを明らかにしたい。1)PEMがpTEFbのキナーゼ活性を抑制する、2)PEMがpTEFbのDNA上へのリクルートを抑制する、等の可能性を検討する。そして、その結果をハエや線虫で既に明らかになっている転写抑制機構と比較することで、より詳細な進化的考察を行う。 2に関して、マボヤの近縁種であるカタユウレイボヤにおいても、PEMがpTEFbとの結合を介してRNA polymerase IIのリン酸化を抑えるのか、それとも別の機構で転写抑制を行うのかを明らかにする。さらに、PEMが存在しないオタマボヤで、RNA polymerase IIのリン酸化の制御による転写抑制が生殖系列であるのか、そもそも生殖質局在型により生殖細胞系列の形成が起こるのかを調べる。これらの結果をもとに、近縁種間での転写抑制機構を比較したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
例年通り、コンストラクト作りやタンパク発現等に必要な分子生物学試薬・キットの購入、遺伝子機能阻害に用いるモルフォリノアンチセンスオリゴDNAの購入、その他、各種抗体やホヤの購入に使用予定である。また、学会発表やホヤ採取のための出張旅費に使用予定である。
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