研究課題/領域番号 |
23570255
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
荒木 正介 奈良女子大学, 理学部, 教授 (00118449)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 網膜再生 / 色素上皮細胞 / 細胞環境 / MMP / ギャップ結合 |
研究概要 |
本研究目的は、両生類網膜再生の細胞と分子のメカニズムを明らかにすることである。特に、網膜を除去することによって引き起こされる色素上皮細胞の分化転換のもっとも初期過程に注目し、網膜を除去するとなぜ色素上皮細胞は再生プロセスに入るのかという問題に着目する。そのため、申請者らが開発した2つの組織培養系を駆使して、精度の高い実験をおこなう。平成23年度には、(1) 網膜除去の結果、細胞間接着構造がどのように変化するのか、(2) 再生には、色素上皮細胞が基底膜から遊離することが必要である。そのために、色素上皮細胞で発現誘導されると予想されるMMP (Matrix metalloprotease)が実際に機能するのかどうか、の2点について研究をおこなった。(1) 網膜除去後、および色素上皮を培養開始後、細胞接着分子等についてその発現動態を調査した。細胞ー基質間についてはインテグリン分子、細胞間については、コネキシン43とN-Cadherin分子の局在を調べた。ギャップ結合を構成するコネキシンタンパクは網膜除去後急速に消失し、細胞間連絡が失われることが示された。また、インテグリン分子も同様に失われ、細胞ー基底膜間の相互作用が失われることが示された。一方、カドヘリン分子は比較的維持されていた。組織におけるこのような分布変化とよく対応する結果が、培養においても得られた。(2) 色素上皮細胞の培養では、細胞は元の場所から移動し、次第に幹細胞に分化する。MMPの活性がこの過程でどのような意味を持つのかを調べるために、MMPの特異的な活性阻害剤ortho-phenanthrolineおよびGM6001を培養液に投与して、その効果を見た。結果は、細胞の移動が阻害され、細胞の増殖、神経細胞への分化はともに抑制された。この結果は、基底膜からの遊離と細胞移動が再生に必須のものであることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画の骨子部分は、達成された。しかし、予定した計画がすべて達成されたわけではないので、このような自己評価とした。特に、成果の(1)の部分、細胞間の結合状態が再生に必要な転写因子の活性化とどのようにリンクしているのか、についてはまだ、Pax6に関して調査を行った段階である。今後Rxについて詳細に調査をする予定である。また、(2)に関しては、可能ならば、RT-PCRによってどのタイプのMMPが発現誘導され、活性化しているのかを調べる予定であったが、現在実施中であり、次年度前半中には結果が出る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
両生類の網膜再生過程がほぼ完全に再現できる独自に開発した二つの性質の異なる培養系を確立していることが、本研究のもっとも特徴的な点である。この申請課題では、この点を最大限に生かして、再生の初期過程に注目している。中でも細胞動態の変化が何によって引き起こされるのかに注目している。その解析はほぼ順調であり、今後遺伝子とタンパクのレベルでよりいっそう正確な解析を進める予定である。一方、まだ不明の部分は、網膜除去の情報が細胞にどのようにして伝えられるのかという、問題である。これには、なんらかの炎症性分子が関与していると予想されるが、これについて仮説をたてて実験を進める予定である。特に、炎症性分子とそれによって誘導される細胞内シグナル情報伝達系について注目している。再生の引き金分子とそれに対する応答機構についてはほとんど不明であり、今後注目される結果が得られるものと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度には、主に培養系を中心に、細胞間連絡(Gap結合)の阻害剤の効果を調べることや、MMPの発現解析、シグナル経路としてWnt経路に注目して研究を進める。これらの研究に必要な細胞生物学や分子生物学の消耗品や試薬等に研究費を使用する。
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