研究課題
これまでに研究代表者は、パラログ遺伝子のペアPax2とPax5の間で起きる発現の補完制御が、両者の間で保存されている相同なエンハンサー(パラログ関係にあるエンハンサー)を介することを発見した。本年度は、同様な仕組みが他のパラログ遺伝子ペア、COUP-TFI (Nr2f1)とCOUP-TFII (Nr2f2)にも存在するかどうか解析した。マウスにおいては、COUP-TFIIを破壊するとその発現部位(網膜色素上皮等)でCOUP-TF1の発現が活性化する。この発現補完制御の種間での保存性について調べるため、ツメガエルにおいてCOUP-TFIIの発現を阻害したところ、マウスの場合とは異なりCOUP-TFIの顕著な活性化は見られなかった。また、これらパラログ間で相同なエンハンサーのうち、COUP-TFIに存在するものがCOUP-TFIIの発現阻害に応答して活性化されるかどうかトランスジェニック実験によって調べたが、そのような活性化はみられなかった。これらの結果から、ツメガエルのCOUP-TF1とCOUP-TFIIの間には、発現の補完制御が存在しないか、あるいは存在するとしてもPax2やPax5の場合のような相同なエンハンサーを介したものではないことが示唆された。そこで、COUP-TFIやCOUP-TFIIと似た発現様式を示す他のCOUP-TF関連遺伝子が関与する可能性を考え探索したところ、新たにNr2f5を発見した。ゲノム解析及び系統樹解析から、Nr2f5はCOUP-TFIとCOUP-TFIIが分岐する以前に、それらの共通の祖先遺伝子から分岐したもので、カエルやサカナには存在するが哺乳類には存在しないことがわかった。また以上の結果に加えて、遺伝子発現の補完制御との関わりから、ヒストン脱メチル化因子やツメガエルの四肢再生、眼の発生についても新たな知見が得られたので、論文に発表した。
2: おおむね順調に進展している
Pax2とPax5遺伝子の場合とは異なり、COUP-TFIとCOUP-TFII遺伝子の間の発現補完機構は、種によって異なることが明らかになってきた。この結果は、当初期待していたものとは異なるが、研究計画において想定内のものである。マウスとは異なり、ツメガエルではCOUP-TFIIの発現をアンチセンスモルフォリノオリゴによって阻害してもCOUP-TFIの発現は亢進せず、代わりにNr2f5遺伝子が補完的役割を果たすと考えられる。一方、ゲノム配列の比較解析によれば、Nr2f5とCOUP-TFIIの間でエンハンサーと考えられる配列は保存されていない。それゆえ本年度の結果は、パラログ間での発現の補完制御について、その種差のみならず相同なエンハンサーを介するものとは異なる新たな機構を示唆するものとして、その意義は大きい。
まずCOUP-TFII遺伝子の発現低下に応答して、Nr2f5が発現を亢進する機構について解析する。これと共に、当初の予定通りSox2とSox3、あるいはNeuroD1とNeuroD2、NeuroD6など、相同なエンハンサーをもつ他のパラロググループについて、発現の相互補完が起きるかどうか、それぞれの遺伝子の発現を阻害するアンチセンスモルフォリノオリゴ等を用いて解析する。働く場合には、Pax2とPax5の場合のように相同なエンハンサーを介して制御されるのか、あるいはCOUP-TFIIとNr2f5のように別の機構によるのか、トランスジェニック実験とアンチセンスモルフォリノオリゴを用いた実験を組み合わせるなどして、明らかにする。相同なエンハンサーを介して制御される場合には、Pax2とPax5のように環境ストレス(高塩濃度環境等)にも応答するかどうか検討する。
当初の予定通り、物品費として140万円、旅費として70万円、人件費・謝金として5万円、その他として5万円を計上する。物品費は酵素・試薬類やプラスティック製品、実験動物等の購入あるいは飼育費である。旅費は第45回日本発生生物学会・第64回日本細胞生物学会合同大会(5/28-5/31に神戸にて開催予定)及びInternational Xenopus Conference(9/9-9/13にフランスにて開催予定、研究代表者ほか連携研究者1名)等に参加し、研究発表をおこなうのに使用する予定である。人件費・謝金は専門的知識の提供等に対する謝金、その他は論文校正及び投稿費等に使用予定である。
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