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2012 年度 実施状況報告書

感覚器適応種分化の分子機構とその普遍性

研究課題

研究課題/領域番号 23570269
研究機関東京工業大学

研究代表者

寺井 洋平  東京工業大学, 生命理工学研究科, 東工大特別研究員 (30432016)

キーワード種分化 / 環境適応 / 光受容体 / 婚姻色
研究概要

生物多様性の創出は種分化がその原動力となっていると考えられてきた。しかし、分子生物学が発展した現在になっても種分化の機構はほとんど明らかになっていなかった。私は近年、感覚器の適応によって引き起こされる種分化の機構を分子レベルで明らかにした。しかし、1)まだ感覚器が受容するシグナルが性選択により分化することを分子レベルで示すには至っていない。また2)この機構が多くの生物で共通の現象であることも示していない。そこで本研究では感覚器の適応が引き起こす種分化の全体像を示し、この機構が生物多様性獲得の共通の機構となっていることを分子レベルで示すことを目的としている 。本研究では1)を達成するためにカワスズメ科魚類(シクリッド)の婚姻色形成遺伝子群を、2)を達成するためにNothobranchius属魚類の視覚の適応と婚姻色の分化を明らかにする計画である。どちらの計画でも婚姻色形成遺伝子群の解析が必須であるが、これまでに婚姻色形成に関わる遺伝子は明らかにされていなかった。 昨年度までに婚姻色を呈しているシクリッドの1種のオスの表皮で多く発現する遺伝子を次世代シークエンサー解析により400程度単離した。平成24年度はこの400遺伝子を絞り込むために他の2種でも同様の実験を行い共通の遺伝子を絞り込み、また昨年度の種も同様の解析を行い個体差により多く発現していた遺伝子を排除した。また、種特異的な婚姻色形成遺伝子の変異は性選択により種内に固定していると予想されるため、種特異的に遺伝的に分化した領域を、2種それぞれ20個体ずつを解析して明らかにした。これら分化した領域は数十領域存在し、その中でオスの婚姻色を呈した表皮で多く発現する遺伝子が存在する領域も数カ所あった。このような遺伝子には細胞間チャネルに関係するものがあり、種特異的な婚姻色パターン形成に関わった可能性が大きいと考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

私はこれまでに、感覚器の適応によって引き起こされる種分化の機構を明らかにしてきた。しかし、まだ婚姻色が性選択により種間で分化して種分化を引き起こしてきたことについては示すことができていない。その最大の理由がこれまでに婚姻色形成に関わる遺伝子がほとんど知られていないことである。感覚器の適応を他の魚種で明らかにすることは、これまでの経験があるためそれほど困難ではない。平成24年度は婚姻色形成遺伝子群の候補の中から種間で共通の遺伝子を絞り込むことを行い、またこれら遺伝子の中で性選択によって種特異的に分化した領域に存在する遺伝子を明らかにし、その遺伝子が種特異的な婚姻色パターン形成に関与している可能性が大きいことを示した。そのため当初の計画以上に進展していると自己評価を行った。その具体的な内容を以下に述べる。平成23年度にカワスズメ科魚類の1で種婚姻色を呈しているオスの表皮で多く発現している遺伝子を400程度、次世代シークエンサー解析により明らかにした。平成24年度は同様の実験を他の2種でも行い、婚姻色形成に関わる遺伝子の絞り込みを行った。また、平成23年度に用いた種も複数個体同様な解析を行い、個体差による遺伝子発現量の違いの可能性を排除した。また種特異的な婚姻色形成に関わる遺伝子は、その遺伝子が存在する領域が性選択により種間で分化していると予想されるため、2種のそれぞれ20個体ずつを解析に用いて種間で分化した領域を数十カ所特定した。それらの箇所において、オスの婚姻色特異的に発現の多い遺伝子が存在する領域が数カ所存在し、そのような遺伝子には細胞間チャネルに関係する遺伝子もあった。このような遺伝子は種特異的な婚姻色パターンの形成に関わる可能性が大きい。また、婚姻色の進化を加速させる性決定領域も4種で親と子のDNAを抽出して決定することを進行させている。

今後の研究の推進方策

平成25年度の研究の推進は、これまでにカワスズメ科魚類の種で明らかにしてきた1)婚姻色を呈する体表で多く発現する婚姻色形成遺伝子群の解析を終了させ、婚姻色形成に本当に関わる遺伝子を明らかにする。2)性選択により種間で分化した領域を他の種も解析に加えることによりさらに多く明らかにする。3)4種において性決定領域を明らかにし、その領域もしくはその近傍領域に存在する婚姻色形成遺伝子、もしくは種間で分化した領域を明らかにする。現在までに青、赤、オレンジの婚姻色を呈する種でこのような解析を進めてきたので、さらに黄色の婚姻色の種でも同様の解析を行う。これらを示すことにより、性決定領域の進化と変遷が種ごとに異なる婚姻色形成遺伝子群の発現を促進し、性選択により種特異的な婚姻色が形成されてきたことを示すことができる。また、Nothobranchius属の種は、これまで本格的に飼育ができていなかったが、この魚類も実験動物として継続的な飼育を行う予定である。そしてオプシン遺伝子とその吸収波長を調べ、また婚姻色の反射スペクトルも解析することで、視覚の適応が引き起こす種分化が起こってきたことを明らかにする。Nothobranchius属の種は小型で世代時間も短いため、感覚器適応種分化のモデル生物として研究が発展することが期待できる。

次年度の研究費の使用計画

該当なし

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2012

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 斑な世界を形作る遺伝子たち2012

    • 著者名/発表者名
      寺井洋平、米澤隆弘、長谷川政美
    • 雑誌名

      BIOSTORY

      巻: 18 ページ: 28-45

  • [雑誌論文] Correlation between Nuptial Colors and Visual Sensitivities Tuned by Opsins Leads to Species Richness in Sympatric Lake Victoria Cichlid Fishes2012

    • 著者名/発表者名
      Miyagi R, Terai Y, Aibara M, Mizoiri S, Sugawara T, Imai H, Tachida H, Okitsu T, Wada A and Okada N.
    • 雑誌名

      Molecular Biology and Evolution

      巻: 11 ページ: 3281-3296

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 視覚の適応が引き起こす種分化の機構 ―Sensory Drive―2012

    • 著者名/発表者名
      寺井洋平、岡田典弘
    • 雑誌名

      生物の科学「遺伝」

      巻: 66 ページ: 159-165

  • [学会発表] B染色体が保有個体をメス化させる機構とその進化2012

    • 著者名/発表者名
      寺井洋平、吉田恒太、鈴木南、田辺秀之、黒岩麻里、豊田敦、伊藤武彦、岡田典弘
    • 学会等名
      (財)染色体学会
    • 発表場所
      大雪クリスタルホール(旭川)
    • 年月日
      20121005-20121005
  • [学会発表] Commonality of speciation by sensory drive revealed by its signatures in Lake Victoria cichlid fishes2012

    • 著者名/発表者名
      Yohey Terai, Ryutaro Miyagi, Shinji Mizoiri, Semvua I. Mzighani, Mitsuto Aibara, Takashi Okitsu, Akimori Wada, Tohru Sugawara, Hiroo Imai, Norihiro Okada
    • 学会等名
      日本遺伝学会
    • 発表場所
      九州大学(福岡)
    • 年月日
      20120926-20120926
    • 招待講演
  • [学会発表] B染色体が保有個体をメス化させる機構とその進化2012

    • 著者名/発表者名
      寺井洋平、吉田恒太、鈴木南、田辺秀之、黒岩麻里、豊田敦、伊藤武彦、岡田典弘
    • 学会等名
      日本進化学会
    • 発表場所
      首都大学東京(南大沢)
    • 年月日
      20120821-20120821
  • [図書] シクリッドの視覚の適応と種分化 現代の生態学9巻「淡水生態学のフロンティア」2012

    • 著者名/発表者名
      寺井洋平、岡田典弘
    • 総ページ数
      14
    • 出版者
      共立出版

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公開日: 2014-07-24  

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