研究課題/領域番号 |
23570270
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
古丸 明 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10293804)
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研究分担者 |
河村 功一 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (80372035)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 雄性発生 |
研究概要 |
平成23年度は、滋賀県野洲川水系用水路で採集したマシジミ Corbicula leana 雌雄同体と雄型からDNAを抽出し、PCR法でミトコンドリアDNAと核遺伝子28S rRNA遺伝子を増幅し、塩基配列の解析を行った。起源を明らかにする事を目的として、琵琶湖産(淡水産)セタシジミC. sandai、三重県安濃川産ヤマトシジミ C. japonica の標本についても同様な解析を行った。ミトコンドリアcyt B領域の分析結果から、系統樹を構築したところ、ヤマトシジミが最も速く分岐し、セタシジミとマシジミは、明らかに異なるクレードを形成した。マシジミは、セタシジミと遺伝的に最も近い事が明らかになった。 ミトコンドリアcyt b領域の解析から、マシジミ雄型と雌雄同体の間で差異は少なく、同じハプロタイプを共有している個体が多く、雄型は雌雄同体から生じた物と推定された。しかし、核遺伝子28S RNAの解析結果、雌雄同体のハプロタイプと、雄型のハプロタイプは全く一致しなかった。通常はミトコンドリア遺伝子のほうが核遺伝子より進化速度が速い。これらの結果を説明する際、想定される仮説として 1)雄性発生シジミでは核遺伝子の進化速度がミトコンドリアより速い。2)雌雄同体の産んだ卵が、雄型の精子で受精し、雄性発生により核遺伝子が完全におきかわった。の2つが想定される。また、28Sの解析結果から、セタシジミとマシジミはハプロタイプを共有している事が明らかになった。ミトコンドリアでは両種が完全に分岐していたのに対し、核28S遺伝子では、predominantなハプロタイプが共通であった。この結果はミトコンドリア遺伝子よりも核28SrRNA遺伝子の進化速度が小さいためであると解釈できる。以上の今年度得られた知見を総合すると、以上の仮説2)が強く支持される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般に28S rRNA遺伝子は、重複してfamilyを形成している。この領域は協調進化により、塩基配列が遺伝子間で均一になっていると考えられてきた。しかし、今年度の解析で、同じ個体が複数のことなる配列を保有している事がわかった。想定していた以上に同一の個体が変異性に富んでいる事が明らかになった。そのため、28SrRNA遺伝子のPCR産物をそのままではシークエンサーで解析することが困難である事が多かった。そのため、PCR産物をいったんクローニングしてから、塩基配列解析にかける必要があり、分析に時間を要したものの、得られた結果は、新規性に富み、その一部分を論文にする事ができた。今後は異なる領域を追跡する等して、データの客観性を高めたいと考えている。マイクロサテライト遺伝子解析も行ったが、用いたプライマーによっては、集団が異なると増幅が認められない個体がある事が明らかになった。若干の試行錯誤を行う事になったが、今年度に得られた知見は既にZoological Scienceに発表済みであり、さらに核遺伝子から、雄型の起源を28SrRNA遺伝子解析で調査した結果、雄型が雄性発生により、雌雄同体の産んだ卵を受精させて、核の完全置換がおこっている可能性を示唆する結果を得る事ができ、この結果も既に国際誌 Development,Genes and Evolution 誌に受理されたことから、研究は当初の想定どうりおおむね順調に進行していると、自己点検の結果、評価を行った。分析技法の問題はあるものの、大きな障害にはならないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
24年度以降は、核の他の領域、マイクロサテライトを用いて集団間の遺伝的変異性の解析を行う予定である。その目的としては、雄性発生シジミの起源を明らかにすることであり、中国産のCorbicula 属のシジミの解析を行う予定である。また、マイクロサテライト、あるいはAFLPと呼ばれる手法により、集団内のクローン性を解析する。雄性発生は精子の核ゲノムだけで発生する極めて稀な発生様式であるが、果たしてクローン発生となっているのかどうかについては今後明らかにする予定である。また、28SrRNA遺伝子は100以上の遺伝子の繰り返しにより構成されており、塩基配列の変異性が高く、個体内変異が多く検出される。正確に系統類縁関係を推定する為には、ゲノム内に遺伝子数が1つしか存在しない、single geneを解析することが必要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は分析試薬をプロとコールにより規定されている量よりも、減らしても分析精度に問題が無い事が明らかになり、試薬を効率的に使用できることが明らかになった。節約して生じた予算分を来年度以降の分析試薬購入に充当する予定である。次年度以降は、主に分析用の試薬類の購入、遺伝子実験施設への分析代金に当てる予定である。また米国で開催されるGenetics in aquacultureにおいて口頭発表する予定であり、国内での採集の為の旅費の支出を予定している。また、標本採集の為旅費を使用する予定である。
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