シアル酸は、細胞表面の糖鎖の末端に位置する酸性単糖である。またSiglecは、このシアル酸を認識し、細胞内に抑制性もしくは活性化のシグナルを伝達する受容体である。Siglec-11は抑制性受容体であり、Siglec-16は活性化受容体である。双方ともヒト特異的に脳ミクログリアで発現を獲得しており、機能解析から、Siglec-11とSiglec-16は細胞機能の微調整に働くペア型受容体であると考えられる。このため、Siglec-11とSiglec-16のヒト特異的な脳ミクログリア発現の獲得は、ヒト特異的な脳内ペア型受容体の出現を意味している。 Siglec-11およびSiglec-16は、脳で豊富なポリシアル酸の構成成分を認識することから、脳内リガンドはポリシアル酸と考えられる。そして、脳内においてポリシアル酸の大半はニューロン上のNCAMに付加されているため、ヒト特異的な脳ミクログリアでのSiglec-11/Siglec-16ペア型受容体の獲得は、ポリシアル酸を介したヒト特異的な脳ミクログリアとニューロンの相互作用を生み出したとみられる。ST8SiaIIは、ポリシアル酸の合成を行う酵素であり、そのプロモーター多型が統合失調症のリスクに関わっている。このリスクに関わる多型の出現年代を調べたところ、Siglec-11/Siglec-16ペア型受容体の出現の時期とほぼ同じであった。また一方で、脳ミクログリアやポリシアル酸の異常は統合失調症に関わっていることが分かっている。このため、Siglec-11/Siglec-16ペア型受容体とポリシアル酸を介した脳ミクログリアとニューロンの相互作用がヒト特異的に獲得され、ヒトの精神機能の進化に関わっている可能性がある。
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