研究課題/領域番号 |
23570272
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木野内 忠稔 京都大学, 原子炉実験所, 講師 (90301457)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | D-アミノ酸 / プロテアーゼ / ラセミ化 / アフリカツメガエル / ウニ / 発生 / ミトコンドリア / 受精 |
研究概要 |
研究代表者は、ラセミ化したアスパラギン酸残基(D-Asp)を含むタンパク質に対する特異的な分解酵素を哺乳類から発見し、これをD-Aspartyl Endopeptidase: DAEPと名付け、その生理機能、構造等の解明に取り組んできた。哺乳類DAEPの基質となるD-Asp含有タンパク質は、加齢の進行や酸化ストレスの亢進とともに非酵素的(=化学的)に各臓器中で増加すること、またDAEPの細胞内局在が、酸化ストレスの主たる産生拠点であるミトコンドリアであることなどから、哺乳類DAEPの生理機能は、加齢によって不意に生じたD-Asp含有タンパク質が細胞にとって有害に作用する前にこれを認識・排除することであると考えられた。しかしながら、哺乳類のように体温が高く、好気的な条件下で長く生きる生物にとってはDAEPのようなシステムが必要であっても、体温が低い、または寿命の短い生物にとってはその有用性は必ずしも高くないはずである。そこで、様々な生物種におけるDAEP活性の測定を行った。その結果、アフリカツメガエルの生殖巣では、非常に高いDAEP様活性が検出された。その分子量や阻害剤に対する感受性などを検討したところ、哺乳類DAEPと同様であったことから、アフリカツメガエルから検出されたDAEP様活性は、哺乳類DAEPホモログに由来するものと考えられた。一方、アフリカツメガエルの至適生息温度は20℃前後であり、その臓器分布は哺乳類が肝臓で高いことに対し、肝臓では微量であり生殖巣に集中していることから、アフリカツメガエルDAEPの生理機能は、哺乳類のようにD-Asp含有タンパク質に対するスカベンジャーではなく、受精や初期発生に能動的に作用するものと推測している。DAEP様活性は魚類やウニでも検出され、現在、それらの性質や受精に対する機能的寄与について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東日本大震災の影響により、(1)状況によっては交付決定通知書に記載された額にかかわらず減額される可能性があったことから、計画を一部見直し、予算の対応を慎重に行ったこと、(2)ウニ類、ホヤ類などの生物材料の調達先・調達予定先が被災し、それぞれの成熟時期に合わせて購入する量ができなかったり著しく少なくなってしまったことや、新たな調達先を見つけるのに時間がかかったこと、などが大きな理由である。
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今後の研究の推進方策 |
進化的に上流に位置する生物種の生殖巣からからDAEPが発見されたことにより、DAEPの機能進化の起原が生殖に関係していることが強く示唆された。したがって今後は、東日本大震災の影響により見直した研究計画のうち、経費が掛かるとして一時的に先送りした遺伝子工学的実験を行い、ウニやアフリカツメガエルの受精や初期発生におけるDAEPの機能的役割を明らかにすること、アフリカツメガエルDAEPの生理的な基質となるべきD-Asp含有タンパク質を未受精卵より同定することを行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
「11.現在までの達成度」で述べたように、東日本大震災の影響により計画を一部見直し、予算の対応を慎重に行ったことと生物材料の購入が限定されたことが、当該研究費が生じた状況である。24年度は、その遅れを挽回すべく先送りした計画を実施するとともに、新たに受精・初期発生時の酸化ストレスとDAEP活性の関係について調べるための研究計画を整備中である。具体的には、生物材料の調達費、アンチセンスオリゴヌクレオチドやペプチド性阻害剤の合成費、受精・初期発生時のミトコンドリアの呼吸能を測定するための酸素電極の購入費などを想定している。
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