研究課題
多くのマイクロRNA遺伝子は、進化的に比較的速い生成・死滅の過程を示すことが知られている。そのため、マイクロRNAと転写因子との協調的な制御の進化を明らかにするために、各マイクロRNA遺伝子の生起時期を同定することが必要である。この目的のために、昨年度遂行した35種の哺乳類ゲノムアライメント、19種の羊膜動物のゲノムアライメントの利用に加え,opossum、wallaby、chicken、zebrafishとヒトとのペアワイ・ズアライメントを用い計38種のゲノム配列比較により、ヒト・マイクロRNAの1,433遺伝子各々について生起時期を哺乳類の進化過程を15の時期に分けて推定した。その結果、ヒト・マイクロRNAの生起数が急速に増える2つの時期を見いだした。すなわち、一つは、ヒト上科の初期、もう一つは有胎盤哺乳類の進化の初期であった。ヒト・マイクロRNAの起源の推定について、既に報告のある研究との照合、シミュレーションを行い検証した。以上の結果を学会発表との原著論文(オープンアクセス)として出版した。マイクロRNAと転写因子との協調的な制御の探求のために、転写因子結合サイトをゲノム配列とそのアノテーション情報を元にDe Novoで予測し、さらに複数種のマルチプルゲノム・アライメントに基づき絞り込むパイプライン・ソフトウェアを作成した。このソフトウェアは位置と配列の単純な保存に加え、結合サイトが前後にずれて機能を保っていると予測される配列も検出するよう設計した。さらに、この方法をマイクロRNAターゲットサイトの保存の推定にも応用すべく作成中である。特に、マイクロRNAターゲットサイトについてはCLIP-Seq(HITS-CLIP, PAR-CLIP)のデータとの統合を行う機能を付加させるよう同時に改変を加えた。
2: おおむね順調に進展している
ヒト・マイクロRNA遺伝子の生起時期を詳細に推定したことにより、盲目的に複数の種で保存されたマイクロRNAターゲットサイトを見つけるのではなく、各マイクロRNAの生起時期以降に保存されたターゲットサイトのみを正確に同定することができるようになり、マイクロRNAによる制御ネットワークの保存と進化をより精細に把握可能となった。また、マイクロRNA遺伝子が急速に生起する時期が存在することを明らかにした点は、当初計画の予測を越えた結果となった。一方、マイクロRNAターゲットサイトおよび転写因子結合サイトの網羅的解析に、多くのCPU時間を要し、協調的制御のネットワーク描出は、なお進行過程にある。この点を考慮して、使用するゲノム配列をHigh-coverageのゲノム配列データが利用可能な種に限るなど、計算時間を勘案した上で効率的な進展を図っている。High-coverage ゲノム配列は哺乳類だけでも現在13種あり、進化的過程を検討するために十分な解像度を与えることと共に、Low-coverageゲノムデータによるノイズの影響を避けることができる利点もあり、研究の進行上において障害とはならないと考えられる。以上のように、マイクロRNAの生起時期については当初計画を越えた達成を得ているが、協調的制御の描出に当初の予想以上に計算時間が掛かることが予測され、現状、計算の分散化で対応できていることを総合的に勘案し、全般的に順調に進展していると考えられる。
当初の計画に沿って研究の推進を行う。CLIP-Seqデータ(HITS-CLIP、PAR-CLIP)については、starBase(http://starbase.sysu.edu.cn)およびdoRiNA(http://dorina.mdc-berlin.de)の利用を加える。前者のデータベースの最終アップデートが2011年5月、後者は2012年12月なので、その時期以降のデータを含め、同時に独自の収集をさらに試みる。使用できるデータの増加により、計算量が急速に増加しているので、現有の計算資源を有効活用し、処理の分散化を図り、進展を早めるよう対策を講じる。研究の進展に伴って得られた知見は、これまで同様に逐次、学術雑誌・学会での発表を行い、広く知見を開示できるようにする。
研究結果および研究のために作成したアルゴリズム等について引き続き、学会発表、論文出版を行うために費用を支出する。比較対象とする種やCLIP-Seqデータが増加し、扱うデータ量が増えたことなどにより、マイクロRNAターゲットサイトのDe Novo 予測等に当初概算以上の計算時間が必要となってきている。まず、現有計算資源による、計算の分散化を図るとともにプログラムの高速化を行うが、それでもなお、十分な計算量を処理できない場合においては、計算用のサーバの増設に支出する必要が生じる可能性があるので、今後の研究計画の進捗に合わせて検討を行う。また、研究結果のデータを分かり易く広く一般に公開するために、ウェブ上にて自由にアクセスできる環境を整えるよう、ウェブサーバを整備するための費用を支出する予定である。
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