研究課題
交配育種に基づく新品種の作出は、ゲノム障壁を越えることはできない。各種生物が有する有用遺伝子を有効に利用するためには、形質転換による分子育種が有効である。しかし、分子育種により得られる遺伝子組換え植物は、生物多様性に影響を与える可能性があるなど幾つかの問題をはらんでいる。自家不和合性に基づく交配不和合性を有するサツマイモ栽培種(Ipomoea batatas)の交配育種で大きな問題になっている点は交配不和合群の存在であり、これは申請者が研究を進めてきたサツマイモ野生種(I.trifida)の自家不和合性に立脚し、これにより多くのサツマイモ系統が有する有用遺伝子の効率的利用が抑制されているといっても過言ではない。 平成23年度までに、I.batatasにおいても、I.trifidaのS候補遺伝子が存在しており、多くの品種にI.trifidaのS3遺伝子型が存在していることが確認された。しかしながら、I.batatasは6倍体であるがために遺伝解析が困難である。そこで2倍体のI.trifidaを用いS遺伝子の決定を進めたところ、S候補遺伝子として同定されていた遺伝子のうち、AB2が、雄側のS遺伝子として機能している証拠を得た。当該遺伝子はdefensin様タンパク質をコードしているとが示されており、I.trifidaにおいても研究の進んでいるBrassica属植物の胞子体型自家不和合性と同様の分子が自他認識に関わっていることが示された。また、雌側の自他認識因子に関しては、ケシ科の雄側の自家不和合性因子と類似した分子である可能性が示された。 I.batatasのS遺伝子型の決定に関しては、現在も解析を続けているが6倍体であることが影響し、若干遅れているのが現状である。
2: おおむね順調に進展している
サツマイモ栽培種および野生種への遺伝子導入に関しては、当初予定に比べ研究の進展が遅れている。しかしながらAgrobacterium法以外の方法の適用可能性を検証中であり、平成24年度において達成できる可能性がある。またサツマイモの自家不和合性因子の同定に関しては、サツマイモ野生種を用いて進めており、平成23年度においては雄側の因子の決定ができた。平成24年度内に雌側の因子の決定が行える予定である。
サツマイモの自家不和合性の雄側因子の最終決定のため、平成23年度に用いた遺伝子型とは異なる遺伝子型の遺伝子を用いて再度検証する。雌側の因子の決定に対しては、S候補遺伝子産物の抗体を作成してバイオアッセイを行う予定である。また、サツマイモの形質転換に関しては、ALSVを用いて進める予定である。
サツマイモ栽培種の主要品種のS遺伝子型の決定に向け、ゲノムDNAを単離し、S候補遺伝子を単離・同定する予定にしている。平成24年度においては、効率的なゲノムDNAの単離を行うための装置を購入すると共に、プライマー合成・ゲノムライブラリー合成のためのキット等の購入を行う。
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Plant J
巻: 66 ページ: 890-902
10.1111/j.1365-313X.2011.04556.x