研究課題
本研究では、内・外穎の鉤合の解除、鱗被の膨潤、花糸の伸長、葯の開裂、柱頭の展開といったイネの開穎装置を構築・統御する遺伝的メカニズムを明らかにすることを目的とする。spw1-cls1は鱗被のアイデンティティ喪失により、開穎できなくなった変異体(閉花性変異体)であるが、前年度までにspw1-cls1とは異なるメカニズムによる変異体を探索し、8系統を新規閉花性変異体として同定している。これらの変異体のうち1系統はspw1の新規ミスセンスアリル(spw1-cls2)であったが、酵母ツーハイブリッドアッセイの結果からcls1とは異なる分子メカニズムによる閉花性変異体であると考えられた。また、spw1-cls1を変異原処理して得たM2世代を圃場で栽培し、spw1-cls1のサプレッサーまたはエンハンサーのスクリーニングを行い、候補系統を得た。また、193mt変異体の原因遺伝子のマッピングを進め、第1染色体短腕上の13.7cMの領域に絞り込んだ。TMT-C27変異体のマッピング集団では分離比の歪みが見られたため、日本晴/Kasalath染色体置換系統との交雑を行い、新規マッピング集団の作成を試みている。一方、RNAiによるOsMADS32の発現抑制カセットをmfo1の弱いアリルに導入したところ、穎状器官の増加、鱗被の穎化などが促進され、OsMADS32がMFO1と協調して開穎装置を形成する遺伝子であることが支持された。
1: 当初の計画以上に進展している
計画に従い、新規変異体のマッピングを進め、193mt変異体の原因遺伝子については13.7cMの範囲にまで候補領域を絞り込んだ。また、TMT-C27変異体については、マッピング用の交配を進めた。また、spw1-cls2変異の原因が二量体形成能の低下によるものではないことを明らかにした。計画外の成果として、TILLINGによってspw1の新規ミスセンスアリルを同定した。新規spw1アリルについては、今後、閉花性や稔実率等の解析を進め、交雑抑制技術開発における利用をめざす。また、spw1-cls1のサプレッサーまたはエンハンサーの候補系統を得た。OsMADS32遺伝子については、mfo1との二重変異体解析により、新たな開穎装置形成遺伝子であることを確認した。以上、研究は計画以上に進展している。
引き続き、193mtおよびTMT-C27の原因遺伝子のマッピングを行う。特に、193mtについては、原因遺伝子のクローニングをめざす。193mtは半矮性・短粒の性質を示すため、矮性遺伝子に着目しつつクローニングを進める。新規閉花性変異体の切片観察を進め、鱗被の膨潤の有無、内外穎の鉤合解除の有無などを明らかにする。spw1-cls2変異の分子基盤を解明するため、酵母ワンハイブリッド法により、標的DNAへの結合能を解析する。また、lhs1などの開穎装置形成変異体とRNAi法を組み合わせることにより、開穎装置形成におけるOsMADS32遺伝子の機能をさらに明らかにする。
本研究課題の推進のため、次年度の研究費は、交付申請時の計画どおり、物品費・旅費・謝金・その他に使用する。なお、次年度使用額968,267円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のために使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件)
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