イネ胚乳形成初期は温度による影響を受けるといわれている。冷温では、胚乳発達初期の胚乳核増殖が遅れ、出穂後2~3日頃が特に冷温感受性である。一方、高温では、種子の品質が低下する。よってイネ胚乳発達初期の分子機構の解明は、冷温による生産減、温暖化による品質低下問題解決の為に重要であると思われる。昨年度までの研究で開花後0~1日目に冷温処理を行ったところ、子房の伸長が著しく阻害され、冷温処理後3~7日目の子房の組織切片を観察したところ、シンシチウムを形成した胚乳が観察されたことから、細胞化以前の胚乳発達過程で冷温による阻害を受けている可能性が考えられた。一方で、イネ胚乳発達初期の高温処理に関する研究では、イネの胚乳発達初期(特に開花後4日目)に一過的に高温にさらされると胴割れ米の発生確率が上昇することが報告されている。開花後4~6日目の胚乳細胞は、活発に細胞分裂が行われ、子房内に胚乳細胞が充足する時期として考えられている。しかし、その時期の高温が子房や胚乳発達にどのような影響を与えるのかの詳細は不明である。そこで本年度の研究では、イネの胚乳発達初期の高温による影響について明らかにすることを主な目的とした。イネ胚乳発達初期に高温処理を行った子房を観察した結果、開花後4日目から高温処理を開始した子房は、標準区と比較して、横伸長が早く進むことが分かった。さらに子房組織切片の形態観察の結果、高温処理区の子房は、標準区と比較して、胚乳細胞の充足、細胞サイズが大きくなるのが早く、高温処理後24時間後には子房内に胚乳細胞が充足していた。一方で、開花後5、6日目から高温処理を開始したものは縦伸長、横伸長ともに標準区と差がなかった。開花後4日目頃の胚乳細胞は細胞分裂を活発に行い、子房内部に胚乳細胞が充足されていく時期であり、これらの観察の結果から、この時期の胚乳は高温感受性であることが考えられた。
|