研究課題/領域番号 |
23580016
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 貞二 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助手 (70155844)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | イネ / 穎果 / 登熟 / 品質 / ABA / 初期成長 / 乾物重増加速度 / source/sink比 |
研究概要 |
イネには登熟優先度調節系があり,穂の下部に着生する弱勢な穎果は,とくに低source/sink比下でその初期成長が遅延すること,そしてこの遅延は乾物蓄積期におけるデンプン合成・蓄積能力の低下を伴うことにより最終粒重や品質が低下をもたらすこと、さらに弱勢な穎果の初期成長の遅延はアブシジン酸(ABA)レベルの低下によることが明らかにされている.しかし,穎果の乾物(デンプン)蓄積とABAとの直接的関係は明確にはされていない.本年度は穂上位置を異にする穎果の乾物重増加速度と内生ABAを精査し,両者の関係を明らかにすることを試みた. 品種ササニシキを用い,強勢な穎果と弱勢な穎果における初期成長期と乾物蓄積期のsource/sink比を変化させ,穎果の初期成長,直線的乾物重増加期におけるその速度と内生ABAレベル,最終粒重・品質等を調査した.初期成長期の低source/sink比により,とくに弱勢な穎果の初期成長が遅延し,穎果の乾物重増加速度も低下した.しかし,この乾物重増加速度の低下をその時の穎果の内生ABAレベルで説明することはできなかった.また,乾物重増加速度が低下したこれらの弱勢な穎果では,最終粒重が低下し,白未熟粒発生が増加,すなわち登熟が悪化した.以上の結果と,穎果の初期成長がABAにより制御されているという以前の結果から,ABAは穎果の乾物蓄積を直接高めるのではなく,穎果の初期成長の促進を通して間接的に高めることにより登熟を促進していることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ABAはunloadingの促進を通じて,sinkにおける物質の蓄積を促進することが以前から指摘されており,それを裏付けるような間接的な証拠もいくつか報告されている.本研究ではイネ穎果における物質蓄積と穎果の内生ABAレベルの関係を精査した.その結果,穎果の乾物蓄積や白未熟粒発生,つまり穎果の登熟と品質を,乾物蓄積期における穎果の内生ABAレベルで説明することはできなかった.したがって,ABAは穎果の乾物蓄積期におけるデンプン合成・蓄積を直接促進するのではなく,穎果の成長(初期成長)そのものを促進して,後の穎果の乾物蓄積期に起こるデンプン合成・蓄積を間接的に促進していることが明らかとなった.これらの結果から,登熟優先度が異なる穎果間で登熟や品質の違いが生じる機構を解明する上で,その可能性を無視できなかったデンプン蓄積期の穎果における内生ABAレベルによる機構を今後除外して研究を推進することができ,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究では,とくに弱勢な穎果では初期成長が遅延すると,後の乾物蓄積期における穎果のデンプン合成・蓄積能力が低下し,登熟・品質も低下することが明らかとなったが,この低下には穎果の内生ABAレベルは関係しなかった.そこでこの能力の低下を乾物蓄積期における穎果の炭水化物代謝関連酵素活性の面から調査することを試みる.穎果の直線的乾物重増加期における炭水化物代謝関連酵素(sucrose synthase,ADP-glucose pyrophosphorylase,starch synthase等)活性を測定,さらに穎果の最終粒重(乾物重),品質(白未熟粒を中心に)調査する.登熟優先度が低い弱勢な穎果の初期成長の遅延によるデンプン合成・蓄積の低下(白未熟粒発生)には,穎果のデンプン蓄積期におけるデンプン合成能力(炭水化物代謝系のいくつかの酵素活性)の低下が関与しているかを明らかにする. さらに,近未来の超多収遺伝子型イネの育成において不可欠な特性と考えられる,低source/sink比条件下でも弱勢な穎果の初期成長が遅延しにくく,登熟・品質が低下しにくいと考えられるイネ,すなわち登熟優先度調節系が弱い品種を主に中国江蘇省の品種・系統から選び出すことを試みる.そして登熟優先度調節系が強く弱勢な穎果の初期成長が遅延し易い品種と登熟優先度調節系が弱く弱勢な穎果の初期成長が遅延しにくい品種を用い,登熟優先度調節系の弱い品種は強い品種よりも,穎果のデンプン合成・蓄積,そして品質の点で優れるか実証することを試みる. また,出穂期前後の種々の時期に種々のABA処理を行い,ABA処理による穎果の登熟・品質の向上を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
イネ穎果の炭水化物代謝系に関する測定のために,ガラス・プラスチック器具,薬品が必要となり,購入予定である.また,登熟優先度調節系が弱い品種を見つけ出すためには,出穂・開花後,連日穎花を透かして穎果の初期成長を観察する必要があり,大変な時間と労力がかかる.そこで一穂の写真を定期的に撮影して,穎花(籾)の緑色,茶色の度合いにより簡易的に登熟優先度の品種間差を判定することを試みる.穂を撮影するためのカメラ一式,撮影した画像を解析するための専用パソコンなどデータ解析関連物品が必要となり,購入予定である.さらに,得られた結果を学会発表するための,またイネ登熟に関する調査を行うための旅費,そしてイネの栽培資材が必要となる.
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