研究課題/領域番号 |
23580016
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 貞二 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助手 (70155844)
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キーワード | イネ / 穎果 / 登熟優先度 / 炭水化物代謝関連酵素 / 登熟 / 品質 / source/sink比 / ABA |
研究概要 |
前年度の研究では,低source/sink比によりとくに弱勢な穎果の初期成長が遅れ易く,この初期成長の遅延に伴い,後の乾物蓄積期における穎果のデンプン合成・蓄積能力が低下し,登熟・品質も悪化すること,またこの能力低下には乾物蓄積期における穎果の内生ABAレベルは関係しないことが示された.そこで本年度はこの能力低下の原因を穎果の炭水化物代謝関連酵素活性の面から検討した.穎果の直線的乾物重増加期におけるsucrose synthase,ADP-glucose pyrophosphorylase,starch synthaseの活性は,強勢な穎果よりも弱勢な穎果で低く,初期成長期の低source/sink比によりとくに弱勢な穎果の初期成長が遅れた場合にこれらの活性が低下し,それぞれの活性は直線的乾物重増加速度と正の相関を示した.以上より,低source/sink比による弱勢な穎果の初期成長の遅延は,後の乾物蓄積期における炭水化物代謝関連酵素活性を低下させる,つまり穎果のデンプン合成・蓄積能力を低下させことにより,米の登熟・品質の悪化を引き起こすという機構が示された. また,穎果の短距離輸送経路における原形質膜ATPaseの分布および活性を細胞化学的に検出した結果,乾物蓄積期には糊粉層および周辺部数層のデンプン貯蔵細胞はapoplastに放出された同化物をプロトン駆動力によ取り込む能動輸送が行われているが,成長初期では能動輸送はまだ確立されておらず,受動輸送が行われていることが示され,このことが,とくに低source/sink比条件下で弱勢な穎果の初期成長が遅延し易い原因のひとつであると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネにはアブシジン酸(ABA)を介した登熟優先度調節系があり,とくに弱勢な穎果では低source/sink比下で内生ABAレベルが低下することによりその初期成長が遅延すること,この遅延は後の乾物蓄積期におけるデンプン合成・蓄積能力の低下を通じて登熟・品質を悪化させることが示されている.しかし,初期成長の遅延からデンプン合成・蓄積能力低下までの機構は明らかではない. ABAはunloadingの促進を通じてsinkにおける物質蓄積を直接的に促進するという成長制御以外の機能が指摘されているが,本研究結果ではその機能は認められず,ABAは穎果の初期成長を促進して,後に起こるデンプン合成・蓄積を間接的に促進していることがわかった.また,低source/sink比による弱勢な穎果の初期成長の遅延は,後の乾物蓄積期における炭水化物代謝関連酵素活性の低下を通じて穎果のデンプン合成・蓄積能力を低下させることがわかった.さらに,原形質膜ATPaseを細胞化学的に調査した結果,乾物蓄積期では胚乳細胞による同化物の取り込みは能動的であるが,成長初期では受動的であることが示され,このことが弱勢な穎果の初期成長が低source/sink比下で遅延し易い原因のひとつであると考えられた. 以上より,成長初期のとくに弱勢な穎果では,低source/sink比条件により成長促進として働いている内生ABAレベルが低下すること,胚乳への同化物取り込みが能動的でないために同化物不足になりやすいことが原因で穎果の初期成長が遅延し,この遅延により後の乾物蓄積期における炭水化物代謝関連酵素活性が低下し,穎果のデンプン合成・蓄積能力が低下,そして登熟・品質の悪化が起こることが明らかとなった.つまり低source/sink比から米の登熟・品質悪化までの一連の機構が明らかとなり,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究では,イネにはアブシジン酸(ABA)を介した登熟優先度調節系があり,初期成長期のとくに弱勢な穎果では低source/sink比条件により内生ABAレベルが低下すること,さらに胚乳への同化物取り込みが能動的でないために同化物不足になりやすいことが原因でその成長が遅延すること,そしてこの穎果の初期成長の遅延は後の乾物蓄積期における炭水化物代謝関連酵素活性の低下を通じて穎果のデンプン合成・蓄積能力を低下させ,登熟・品質の悪化を引き起こすことが明らかとなった.つまり低source/sink比条件から米の登熟・品質悪化までの一連の機構が明らかとなった. したがって,イネが本来持っていると考えられる登熟優先度調節系が米の登熟・品質に大きく関わっていると考えられた.そこで,低source/sink比条件下でも弱勢な穎果の初期成長が遅延しにくい品種・系統,すなわち登熟優先度調節系が弱いイネと,弱勢な穎果の初期成長が遅延しやすい品種・系統,すなわち登熟優先度調節系が強いイネを用い,登熟優先度調節系の弱い品種は強い品種よりも,穎果のデンプン合成(炭水化物代謝)・蓄積,そして品質の点で優れるか実証することを今後試みる. また,出穂期前後の種々の時期に種々のABA処理を行い,穎果の初期成長を変化させた場合,すなわち登熟優先度調節を人為的に変化させた場合の穎果の登熟・品質の向上を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
イネ穎果の炭水化物代謝系に関する測定を行うために,ガラス・プラスチック器具,薬品等が必要となり,購入予定である.また,穎果の炭水化物分析に用いているガスクロマトグラフィーからの出力データを直接処理するための専用パソコン,穎果の顕微鏡写真を撮るための専用カメラ,品質の異なる穎果の拡大写真を撮るためのマクロレンズなどが必要となり,購入予定である.さらに,得られた結果を学会発表するための,またイネ登熟に関する調査を行うための旅費,そしてイネの栽培を行うための資材や工具が必要となる.
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