研究課題/領域番号 |
23580019
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 淳 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (60221727)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 工芸作物 / 耐湿性 / 国際研究者交流 / 東南アジア |
研究概要 |
バイオマス作物・バイオ燃料作物として有望と考えられるエリアンサス,ネピアグラス,ケナフ,ヤトロファについて,休耕田や水田裏作,あるいは,湿地・河川敷などの耕作不適地での栽培を実現するための基礎研究として,ポット栽培およびバーミキュライトによる幼植物栽培で,湛水に対する耐性を評価した.ネピアグラスが,特に高い耐湿性・湛水抵抗性を示したが,湛水・過湿条件下のネピアグラスが,土壌表層や地表に根を発達させること,茎の地上節からも容易に発根すること,通気組織を形成することなど,根の特性が関わっている可能性が示された.ただし,これらの個々の形質がどの程度に耐湿性に寄与しているかは,今後さらに検討が必要である.たとえば,通気組織はエリアンサスやケナフでも観察されたことから,通気組織の形成のみでは十分な耐湿性が担保されない可能性がある. 国内での実験のほかに,タイ・コンケン大学やフィリピン・国際稲研究所などの研究者から,東南アジア各国における,水田でのバイマス作物の乾期作や,洪水・湛水による被害についての研究情報を得た.タイでは,ケナフが類縁種であるロゼル(タイ・ケナフ)よりも耐湿性にすぐれ,水田での乾期作あるいはイネ作付け前の雨期はじめの栽培に高い適応性を示すが,湛水が起きた場合には,生育の阻害が起こる.イネ科のバイオマス作物としては,やはりネピアグラスの耐湿性・湛水抵抗性が高そうであり,次年度以降で現地調査も含めて,特に根の特性に着目して調べることとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国内での実験については,作物間の耐湿性の差異や根の特性について,本課題の初年度として予定していた調査をほぼ行ったが,一部の品種については,海外からの種子購入に時間が掛かったために,計画の遂行に若干の遅れが発生した. 東南アジアにおける調査は,研究者招聘による情報収集に留めて,現地調査を次年度に繰り越した.これは,現地での調査をより効率的に行うため,事前に,対象作物・調査地などをさらに絞り込んでおくほうが良いと判断したためである.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の栽培試験の結果に基づき,イネ科と双子葉の別にも配慮しつつ,耐湿性が特に高い作物と比較対照としての耐湿性の弱い作物に分類し,調査対象を数種に絞り込む一方で,種内の変異も調査する. 耐湿性に関わる可能性がある土壌表層への根の分布について,茎葉の耐湿性との間に明瞭な対応関係が見られるかを栽培試験で再度検討するとともに,個根のどのような形質が,表層の根量に関わっているのか,特に根の伸長角度や側根形成に着目しつつ,ポット栽培やバーミキュライト栽培で詳細に調査する.このほか,根の先端からの距離別に切片を作成して,根の組織構造について,光学顕微鏡・蛍光顕微鏡と走査電子顕微鏡で観察を行ない,通気組織形成の有無と開始時期,内皮・外皮の細胞壁の2次修飾などと耐湿性との関係を検討する. 海外においても,インドネシアでの現地調査を実施しネピアグラスを中心に,表層における根の発達や組織構造の特性と耐湿性と関係を検討する. さらに最終年度の,平成25年度においては,実験的な処理により土壌表層での根の発達や不定根の発生を促すことで,過湿・湛水処理への耐性の向上を検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度から24年度に,研究費の一部を繰り越した.これは一部には,海外からの種子の入手が遅れて栽培試験を延期した品種があったことと,東南アジアでの現地調査を延期したためである.いずれも,平成23年度のうちに,準備は整ったので,24年度に実施する.繰越した研究費(約60万円)は,国内での栽培試験のための消耗品費(約20万円)とインドネシアへの調査渡航での実験消耗品・海外旅費(約40万円)として使用する. 当初から平成24年度分として計上していた研究費(約130万円)については,当初計画通りに,国内における栽培試験と根の測定・組織観察に関わる物品費・謝金等の経費(約60万円),海外調査旅費・栽培管理の委託費(約60万円),および,成果発表旅費(約10万円)に使用する.
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