研究課題/領域番号 |
23580019
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 淳 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (60221727)
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キーワード | 工芸作物 / 耐湿性 / 根 |
研究概要 |
国内のポット試験では,2週間の湛水処理が地上部の生育に及ぼす影響を調査することで,各作物の耐湿性程度を評価した.調査対象としては,イネ科植物では,トウモロコシと対比しつつエリアンサスとネピアグラスを,双子葉植物では,ダイズと対比しつつケナフとヤトロファを取り上げた.ネピアグラスとケナフが,比較的強い耐湿性を示したほか,エリアンサスでもある程度の耐湿性がみられた.ネピアグラスとケナフは,湛水により地上茎からの発根が促進され,側根も良く発達した結果,水中に多くの根が見られた.特にケナフは,湛水開始の翌日から発根が認められ,湛水初期には茎の生長よりも根の発達が優先されていた.湛水により,総根重は大きく減少するが,こうした嫌気ストレスが比較的軽微な水中や土壌表層での側根の良く発達した根の形成は,根の機能の保持に寄与していると考えられる.これに対し,エリアンサスは,水中の根も形成されるものの,その量は,ネピアグラスほどではなかった.また,トウモロコシは,地上の節から発根はするが,その側根は1-2mmしか伸長せず,養水分の吸収にはほとんど寄与していないと考えられた.ヤトロファは,湛水による不定根の発根はなく,地上部は,枯死はしないが,湛水期間中の生育は著しく抑制された.湛水した水田での栽培においても,トウモロコシとダイズは,ほとんどの個体が移植から1ヶ月ほどの間に枯死したのに対して,エリアンサス,ネピアグラス,ケナフの3種は,水田でも,生長量は抑制されるものの枯れることなく生育し,ポット試験と同様に,ネピアグラスとケナフでは,水中に多くの根が見られた. インドネシアのスマトラ島において実施したネピアグラスの品種比較のポット試験では,いずれの品種も,湛水期間中の水中での根の発達がみられ,トウモロコシに比べて耐湿性が強いことが確認されたが,その程度には,品種間による差異が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に続き,バイオマス作物の中で,耐湿性については,ネピアグラスとケナフが特に有望であり,エリアンサスも比較的良好であることを確認できた.これら3種は,根に通気組織を形成する能力が高い植物であり,さらに,ネピアグラスとケナフは,湛水時に,比較的酸素が多い水中や土壌表面に,多くの根を発達させることから,本研究の主眼である,耐湿性における根の形態の重要性が明瞭になりつつあるといえる. さらに他品種のネピアグラスが栽培されているインドネシアにおいて,耐湿性の品種間差異を確認できたことで,種内変異を用いて,根の形態と耐湿性との関係をより詳細に検討することが可能となった.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度においては,耐湿性の面で有望な作物であることが確認でき,品種間差異も認められたネピアグラスのインドネシアでの栽培試験を中心に研究を進める.耐湿性の強いThailandなどの品種が,同じネピアグラスの中でも耐湿性に劣る他の品種に比べて,どのような根の形態の違いがあるかを確認する.このために,ポット試験だけでなく,圃場試験も行って,土壌中での根の分布の違いや内部形態の違いを調査する.
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次年度の研究費の使用計画 |
ネピアグラスの品種間差異を検討するために,平成25年度はインドネシアでの栽培試験が中心となる.このため,現地での栽培管理の委託費に約60万円,海外旅費を約30万円使用する.このほか,栽培試験や根の形態調査に用いる栽培資材・実験器具などの消耗品として,物品費や輸送のための経費を約40万円,成果発表のための国内旅費や英文添削費を約10万円使用する.
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