最終年度である平成25年度には,主に2つの栽培試験を行った.1つめはインドネシアのスマトラ島南部にあるランプン州において,多年生イネ科植物のネピアグラスの栽培試験を実施した.前年度までの成果から,(1)ネピアグラスの耐湿性が高いこと,(2)ネピアグラスの中でも生育初期(移植後1~2ヶ月)の個体で品種比較をすると,湛水処理による生育抑制の制度に差があることが明らかになったので,水田を塩ビ板で仕切り,湛水した区(湛水区),湛水の水が地表から入らないようにした区(過湿区),二重の仕切りで地下からの水浸透も小さくした区(対照区)を設け,生育初期の湛水耐性が高い品種と低い品種を栽培して,茎葉部の生育量(バイオマス生産量)と根の分布を比較した.茎葉の生育量は湛水・過湿により低下したが,いずれの品種も,同様に栽培したトウモロコシよりは良く,さらに生育初期の湛水耐性が高かった品種は,低かった品種に比べて,3ヶ月間の栽培後の湛水区・過湿区でのバイオマス生産量が大きく,表層での根量が大きい傾向を示した.2つめは,福島県内の農家圃場において,水田からの転換畑と,元果樹園の畑で多年生イネ科植物のエリアンサスを栽培した.水田転換畑は,土壌水分率が畑よりも高く推移したが,8月の乾燥機には逆に土壌水分率が畑よりも低かった.前年度の生育は,水田転換畑ではやや劣るものの,初年度しては良好であったのに対して,栽培2年目の平成25年度は,水田転換畑で初夏の再生期から生育が悪く,一部の株が枯死した.水田転換畑のなかでも,土壌水分率の高い過湿の程度が著しいとみられる場所で,生育が特に悪かった.エリアンサスは,晩秋に根にデンプンを蓄積して翌年春~初夏の再生に備える性質があり,特に東北のような寒冷地では,湿害で根に障害があってデンプン蓄積が不十分な場合に,越冬性が低下すると推定された.
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