研究課題/領域番号 |
23580026
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
小林 浩幸 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター環境保全型農業研究領域, 上席研究員 (70355329)
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研究分担者 |
内田 智子 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター環境保全型農業研究領域, 主任研究員 (70531854)
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キーワード | 埋土種子 / ヒユ属雑草 / 種子による同定 / 3次元形状 |
研究概要 |
総合的雑草管理技術に供する雑草種子の確実な同定システムの開発の前提として、第一に、種子の形態による同定が 困難な草種間について、3D観察システムを用いて近縁他種との確実な区別点(形状特徴量)を確定する。第二に、埋土 種子が雑多な草種から構成される事実を考慮し、3次元形状を用いたニューラルネットワークモデルに基づき、多数の種を同時に対象としうる自動同定技術の有効性を検証する。 昨年度は、これまでに全国4地点から採取したいずれも種子による同定困難なヒユ科の難防除雑草であるホソアオゲイトウ、アオゲイトウ、イガホビユ、イヌビユのサンプルを用いて3次元形状を計測し、区別点を探索するとともに計測作業の効率化をはかった。 計測した形質は種子の長径、短径、厚さ、臍に見られるくちばし状突起の角度、種子の周囲を円盤状に取り巻く胚部分の厚さで、これらから、二次的に扁平率(種子の細長さ;長径/短径)も算出した。 種子の形成プロセスが他と異なるイヌビユは、種子のサイズが全体として大きく、くちばしの角度が鈍角で円形に近いことで比較的明瞭に区別できた。他の3種はどの形質もレンジの重なりが大きく、決定的な区別点は見いだせなかった。ただし、サンプル全体としては、アオゲイトウはサイズが中庸でくちばしの角度が鋭角、イガホビユはサイズが小さくくちばしの角度が鈍角、ホソアオゲイトウはいずれも変異幅が大きい傾向が認められた。 以上から、イヌビユ以外については、1粒づつの同定は困難でも、混成集団でなければ、各形質の分布から同定が可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、昨年度は、初年目に明らかにすることとしていた区別点にもとづいて、ニューラルネットワークモデルを試作し、自動判別が可能かどうかを検討することとなっていたが、初年目に発生した原発事故への緊急対応に想定をはるかに上回るエフォートを割かれたことなどから現時点においてもイヌビユを除き、供試草種の決定的な区別点を見出すに至っていない。 その一方で、前提となる3次元画像の取得は、ヒユ属雑草に関してはデジタルカメラへの取り込み倍率0.63倍、ズーム倍率2倍、対物レンズ1倍に固定した上で6つの種子を1画面に取り入れ、2次元画像と3次元画像を同時に取得し、所要の形質を一時に計測する作業手順を確立した。この手順により、画像取得は種子1粒あたり約10秒、6形質の計測は1粒あたり約10秒に短縮できた。この能率は、一昨年までの約5倍にあたる。もう一点、土壌に埋土され、変形が見られる可能性のある種子の同定可能穎については、完全種子の同定手法が未確立のため、今年度も先送りとなった。手作業による作業能率の向上に関しては相応の進展が見られたが、自動化への取り組みまで進むことができていないのが現時点の到達状況である。 以上から、研究の目的の達成どはやや遅れていると、判断した。この判断にあたっては、上述したように、予期せぬ事態により、研究にさける時間が大きく低減していることについてもご配慮いただきたい。
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今後の研究の推進方策 |
ヒユ属雑草は全体が平滑で光を反射し、色彩にも乏しいことから、そもそも正確な3次元画像を取得するのが極めて難しい。このため、初年目にはマイカなどの微細粉を添ぷして光の吸収を向上させる対策、昨年度は、照明の一部を間接照明とするなど、散乱光を取り入れる対策を試み、3次元形状の計測がなんとか可能となった。しかし、研究実績の概要において説明したとおり、1粒毎の同定の確度はまだ相当低い段階にあって、自動化の検討に進むことができていない。これには、上述のように取得される3次元画像が必ずしも安定せず、測定誤差が大きいことが主要な要因であると推察される。そこで、研究が手戻りとならないよう、当面は同定の自動化には着手せず、安定した3次元画像の取得とそれを用いた正確な計測法をさらに検討することとしたい。 その一方で、3次元画像の取得が容易な他の分類群を用いて、どこまで正確な計測が可能かどうかを検証することとしたい。ヒユ属の計測については、この分類群における計測の正確性を目標として改良を進める。 ニューラルネットワークモデルの構築については、あくまでもヒユ属を対象とすることを予定するが、仮に、測定誤差の改善が期待通りに進まなかった場合には、上述の3次元画像の取得が容易な分類群に変更することも想定する。この場合には、2次元画像だけで同定ができる可能性があるが、その際にも、3次元形状を活用することで、識別率をさらに高める手法を検討することにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額226,315円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度の研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。 具体的には、ニュラルネットワークモデル構築のために、昨年度購入したMathematicaのアドオンソフトであるNewral Networks(95,800円)を購入する。また、種子撮影とそのための事前調製を大量に行わせるためにパート職員を短期間雇用する(@80,000円/1月*1月)。その他、顕微鏡照明用の交換ランプ、種子サンプルのステージ上への固定用の容器などの消耗品として約50,000円、成果の論文化のための経費として100,000円程度の支出を予定する。
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