研究課題/領域番号 |
23580039
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
本橋 令子 静岡大学, 農学部, 准教授 (90332296)
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キーワード | プロテオーム / プラスチド / トマト / 分化 |
研究概要 |
トマト果実は成熟するに従い光合成を行うクロロプラストからカロテノイドを蓄積するクロモプラストに分化する。本研究は、Micro-Tom果実や白と黒の果実色を持つHeirloomトマト栽培品種(White Beauty、Black tomato)を用いて、クロモプラストに特異的なタンパク質を多数同定し、クロモプラストのプロテオームデータを得て、クロモプラスト分化メカニズムの解明、分化の鍵タンパク質の特定を目的としている。2次元電気泳動法を用いて、トマト果実の成熟に伴い変動するプラスチドタンパク質を同定した。同様に、白や黒の果色系統のクロモプラストプロテオームデータを取得し比較した。その結果、plastid lipid associated protein CHRC、Temperature Induced Lipocalin (TIL)とHarpin binding protein1に発現量などの違いが観察された。タンパク質量的、翻訳後修飾的に変化するリポカリンタンパク質TILの詳細な解析を開始した。トマトゲノム中に、TILはTIL1とTIL2という相同性の高い2コピーとプラスチドに局在すると考えられているChloroplastic Lipocalin (CHL)が存在する。各タンパク質細胞内局在を調べるために、GFPとの融合タンパク質コンストラクトを作成し、タバコの葉、及びタマネギの表皮細胞にパーティクルガンを用いて導入した。その結果、TIL1とTIL2はプラズマメンブレンに局在していることが解った。 また、TILとCHLの機能を調べるために、形質転換を用いずにウイルスベクターを介した一過的な遺伝子発現抑制法VIGS(Virus-Induced Gene Silencing)の方法の確立を試みた。PDS遺伝子をコントロールとして用いてVIGSをトマトの葉に試み成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
白果実色のトマト栽培系統のアレリズムテストを行ない、白果実色のトマトの原因遺伝子がすべて同一であり、PSYである事がわかった。オレンジ色トマトの原因遺伝子がCRISOであることとともに、栽培系統を含む果実色変異の原因遺伝子に多様性がないという重要な結果が得られた。 プロテオーム解析結果からクロモプラスト分化に関与していると考えられるリポカリンタンパク質TILとCHL をRNAi法によりノックダウン組換え植物体作成を試みたが作成できなかった。しかし、過剰発現コンストラクトとアンチセンスコンストラクトの作成を進めるとともに、一過的な遺伝子発現抑制法VIGSの確立を試みている。すでに、ノックダウンの表現型が解っているPDS遺伝子をコントロールとして実施したVIGS試験は成功している。現在、TILとCHLのVIGS法による遺伝子発現抑制を試みている。 果実成熟過程におけるタンパク質の翻訳後修飾解析は計画より遅れているが、翻訳後修飾の有無や修飾内容について解析するためにタンパク質生産系を作成しているので、おおむね計画は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
トマト果実のプロテオームに関係する論文がいくつか発表されているので、プロテオームデータの蓄積は終え、プロテオーム解析で得られたタンパク質の詳細な解析に進む。リポカリンタンパク質、CHRCなどのタンパク質がトマト果実成熟やクロモプラスト分化にどのような役割を持つのかについて集中して解析を行う。具体的には、上記タンパク質の発現部位、時期の詳細な解析、タンパク質の修飾の有無、ノックダウン変異体の表現型の観察に専念し、クロモプラスト分化への関係を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
700,000円の消耗品経費は、遺伝子クローニング試薬やプロテオーム試薬、トマト栽培試薬の購入のために使用する。 また、学術研究員を雇用し、週に数時間ほどトマト栽培管理を行なってもらうことにより、環境ストレスの少ないトマト果実を得る。 国内学会における本研究の成果発表として、3月に開催される植物生理学会に参加する。また、プロテオーム研究集会や園芸学会にも積極的に参加し、プロテオーム解析の最新技術の習得やトマト果実生理の知識蓄積に努める。
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