研究課題/領域番号 |
23580041
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
別府 賢治 香川大学, 農学部, 教授 (30281174)
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キーワード | 花器官形成遺伝子 / 多雌ずい形成 / 甘果オウトウ |
研究概要 |
前年に単離に成功した甘果オウトウの花器官形成遺伝子{クラスB遺伝子(PIとAP3)、クラスC遺伝子(AG)}について、異なる温度条件下における発現量の差異を分析した。花芽分化期後半に、鉢植え樹を異なる温度(20~35℃)の人工気象室に搬入し、花芽を採取した。花芽の分化段階を調査するとともに、多雌ずい花の発生率を記録した。また、花芽から鱗片を除いて花芽原基を取り出し、RNAを採取し、cDNAを合成して、リアルタイムPCRによりクラスB遺伝子(PaPI, PaAP3)と、クラスC遺伝子(PaAG, PaSHP)の発現量を分析した。花芽分化は、温度が高いほど遅れる傾向が認められた。多雌ずい花の発生率は温度が高いほど大きかった。高温により、PaTM6とPaSHP遺伝子は減少、PaPIとPaAG遺伝子は増加する傾向が認められた。多雌ずい形成や雄ずいの雌ずい化現象の原因として予想されたクラスB遺伝子の減少、クラスC遺伝子の増加と一致したのは、PaTM6とPaAG遺伝子であった。 一方、クラスD遺伝子(STK)について、異なる温度条件下における発現量の差異を分析した。開花期前後に2品種の鉢植え樹を異なる温度(15、25℃)の人工気象室に搬入し、開花時に花を採取した。子房のPaSTK遺伝子の発現量は、‘佐藤錦’では低温区で大きかったが、‘紅秀峰’では高温区で大きかった。温度とPaSTK遺伝子の発現量について一貫した傾向が認められなかった。 イネではクラスA遺伝子(AP2)の発現量の変化によって、雄ずい数の減少と雌ずい数の増加が生じることが報告されており、甘果オウトウについても、まずクラスA遺伝子(PaAP2)の単離を試み、成功した。今後はこの遺伝子の温度による発現量の比較が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工気象室を用いて温度処理を行って、各遺伝子の発現量を比較することができ、実験がおおむね順調に進展した。しかしながら、花芽原基の採取の方法で課題が残ったことから、来年度は植物ホルモン処理や品種間比較、クラスA遺伝子の実験に加えて、今年度の反復試験も改善したやり方で行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今回、凍結保存した花芽から鱗片を剥いて原基を取り出すときに融解した可能性があるので、次年度はこの点を改善したうえで同様の反復実験を行う予定である。これにより、高温による多雌ずい形成とクラスB、C遺伝子の発現量との関係がより明確になるものと期待される。また、新たに単離したクラスA遺伝子の発現量についても、温度環境との関係を探る予定である。他に、多雌ずい化発生頻度の異なる品種間でもクラスA,B,C遺伝子の発現量を比較し、多雌ずい形成へのこれらの遺伝子の関与を探る予定である。胚珠の発育については、温度とクラスD遺伝子の発現量の関係について、同様の実験を行ってデータの信頼性を高める予定である。また、ジベレリン処理を行って胚珠の発育を抑制したときのクラスD遺伝子の発現量を調べることで、胚珠の発育へのこの遺伝子の関与を探る予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
花芽原基の採取の方法で課題が残ったことから、次年度にその同様の実験を改良して行うことにも研究費を投じる。次年度は、新たに単離したクラスA遺伝子の温度による発現量の差異をリアルタイムPCRで分析することや、ホルモン処理を行った植物体および多雌ずい形成能の異なる品種の各種遺伝子の発現量の分析を中心に行うことから、これらに必要な試薬、物品等に研究費を主に使用する。また、実験植物の維持管理に必要なものについても研究費を使用する。さらに情報収集や成果の発表の旅費(スペインで開催される国際オウトウシンポジウムでの研究発表も含む)も必要となる。
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