本研究室では、ナス属野生種の細胞質を用いたナスの雄性不稔系統の育成に関する研究を行っており、これまでに戻し交雑で育成したSolanum virginianumの細胞質をもつナス細胞質置換系統(A系統)において、葉緑体DNAの組換え型が出現し、これが開花しても開葯しないタイプの機能的雄性不稔性を示すことを明らかにしている。本年度では、2009年にS. virginianumとナス‘千両二号’のF1にナス‘Uttara’を交配して新たに育成したB系統のBC1に戻し交雑を繰り返し育成したBC3において、花粉稔性および種子稔性、細胞質DNAの調査を行い、葉緑体DNAの組換え型であるA系統と比較した。 その結果、B系統では、葯の先端が裂開し花粉の放出性が認められたのに対し、A系統では葯の先端が裂開しておらず花粉の放出性が認められなかった。さらに、花粉稔性がB系統がA系統より低いことが確認された。 また、ミトコンドリアDNAの2領域(nad7/3-4およびV7)において制限酵素AluIおよびScrFIを用いて処理した結果、A系統およびB系統ともにS. virginianum型の制限パターンであった。また、葉緑体DNAの3領域(matK AF-MR,rpoC1-C2およびrbcL-ORF106)において制限酵素24種を用いた結果、B系統はS. virginianum型であった。これらの結果から、今回作出したB系統は細胞質DNAが母性遺伝したものであることが確認された。A系統においては、葉緑体DNAにおいてmatK AF-MR,rpoC1-C2およびrbcL-ORF106の領域で父性遺伝している箇所が確認され、rbcL-ORF106領域では組換えも確認された。 以上のことから、これらA系統とB系統の性質の違いは、組換えによって生じた葉緑体DNAの違いに起因していると考えられる。
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