研究課題/領域番号 |
23580051
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大澤 啓志 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (20369135)
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研究分担者 |
嶺田 拓也 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究所, 主任研究員 (70360386)
大久保 悟 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (30334329)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 半自然草地 / 生物多様性 / 植生復元 |
研究概要 |
住民が地域の半自然草地の状態を自ら認知・判断し、必要な管理活動を行うための「環境認知-作用行為(管理及び資源利用)」系を誘発するための生物群として「ガイド種」を設定し、関東圏の畦畔植生を対象にその選出を試みた。その結果、中畔への生育可能性、住民認知度合い、良好な畦畔植生の指標性等の尺度から、10数種が選定された。特に指標性の高い種として、ツリガネニンジン、ワレモコウ、ウツボグサ、コウヤワラビ、ツルボ、ネジバナの6種が抽出された。 次に、半自然草地の文化的な植物として「秋の七草」を例に、万葉時代における生育立地を類推し、「野」の重要性を明らかにした。さらに、万葉集で最も多く詠まれた「萩(ヤマハギ節)」を対象に、丘陵地谷津田域(栃木県茂木町)での水田脇の裾刈り草地における生育実態を把握した。その結果、ヤマハギ節が谷津田斜面下部に特化して生育していること、それは裾刈り部の草刈り管理や岩盤の存在によって支えられてることを明らかにした。しかし、特に裾刈り草地の中には管理放棄されたものも多数存在し、今後も放置されると樹林化が進み、ヤマハギ節の個体数が減少し、現在、夏季~秋季に得られている開花景観が将来消失する可能性が強いことが示唆された。 また、水田畦畔を利用する動物群としてカエル類を指標に、大規模平地水田域(岐阜県・愛知県濃尾平野)における種組成の違いを緑地要素の分布の有無やその状態から検討した。その結果、近代的な圃場整備が行われた地区であっても、地域にハス田や春季湛水水田、湿田などが存在する地区ではある程度の生息数が確保されていることが明らかになり、これらの要素を加味することで平野部でも集約的農業を継続しながらカエル類の生息環境を提供することは可能と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水田周りの半自然草地の類型を検討し、特に畔畔植生管理のための「ガイド種」の選定を文献・専門家へのヒアリングで進めており、候補種が定まりつつある。また、水田脇野管理樹林地内の疎林的環境下での半自然草地における指標植物の動態の実証研究も進んでいる。さらに、栃木県市貝町での圃場整備事業において、土地区画整備組合の協力を得つつ、表土移植による畦畔植生の復元試験も開始し、今後、モニタリングを行う段階まで進めている。
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今後の研究の推進方策 |
「ガイド種」を選定後、実際に畦畔管理者に対しその認知や同定能について調査を行い、畦畔管理における有効性を検証する予定である。また、表土移植による畦畔植生の復元試験は、モニタリングを行い、その有効性と課題を明らかにする予定である。さらに、現在、圃場整備が進行している市貝町での整備年代別での「ガイド種」の生育状況調査を行い、整備後の時間経過に伴う再侵入についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2011.3.11の震災の影響で、想定していなかった東方方面の復興計画に関する調査に労力を多く費やし、結果として予定していた本科研費研究が一部行えずに次年度使用額が発生した。それも踏まえ、栃木県市貝町での現地調査(圃場整備年代別の畦畔植生の変遷および表土移植による畦畔修復試験)旅費のほか、畦畔管理者への「ガイド種」認知確認のためのワークショップ開催の費用、水田周辺の伝統的産業技術による半自然草地環境の維持の実態についての現地調査旅費(栃木県那珂川町、静岡県松崎町等を予定)、伝統的技能所有者への謝金、その他必要な物品購入費である。
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