研究課題/領域番号 |
23580061
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
高松 進 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (20260599)
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キーワード | 植物寄生菌 / 植物病害 / うどんこ病菌 / 分子系統 / 進化 / 分類 / 生物多様性 |
研究概要 |
1)東・東南アジア産うどんこ病菌の形態・分子系統解析 インドネシアおよび日本で採集したうどんこ病標本に加え当研究室保存の乾燥標本について,形態記載を行うとともにrDNA ITS, 28SおよびIGS領域の塩基配列を決定し,系統学的位置を明らかにした.9新種2変種および1新組み合わせを発見し,Mycoscience, Mycological Progress, Mycotaxonなど専門的国際誌に8つの原著論文として公表した.我が国におけるうどんこ病菌の初記録3種,新宿主植物16種について形態・分子系統解析を行った. 2)1世紀ぶりのうどんこ病菌の再発見 1921年にジャワ島で発見され,その後1世紀にわたって見つからなかったうどんこ病菌を再発見した.この菌はうどんこ病菌とは異なる菌であると見なされていたがその後うどんこ病菌に再分類されたものである.本研究の結果,本菌がうどんこ病菌であることが証明され,原記載では発見されなかった不完全世代を新たに記載した 3)Golovinomyces属菌の大規模系統解析 世界中から採集したGolovinomyces属菌の大規模分子系統解析を行った.本属菌の最初の宿主植物はキク科であり,キク科と共種分化した後他の植物科に宿主拡大したと推察された.Golovinomyces属菌はグループごとに宿主範囲が1植物科または連に限定され,植物の系統と密接に関連しながら多様化したことがわかった.もっとも派生的な場所に位置するグループは多様な植物科に寄生するグループであった.このことから,Golovinomyces属菌の中には,宿主範囲を狭く限定する静的なグループと,現在活発に宿主範囲を拡大しつつあるグループが存在することが明らかになった.このような多様化戦略の違いの機構は今後の研究課題である.この成果は米国菌学会の機関誌であるMycologiaに受理された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)複数遺伝子領域の塩基配列解析の技術確立 IGS領域についてはシークエンス技術を確立できたが,チューブリンとEF1a遺伝子領域についてはペンディング状態である. 2)東・東南アジア産うどんこ病菌の形態および分子系統解析 期待以上の成果が得られていると考えている.来年度は再度インドネシアでの採集を行い,東南アジアにおけるうどんこ病菌の多様性獲得機構について検討していきたい. 3)Golovinomyces属菌の系統解析 これの解析,論文作成には3年ほどかかったが,今年度中に論文作成を終了し,Mycologia誌に受理されたことで一応の成果が得られたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
1)東南アジアにおける標本採集と多様性獲得機構の解析 インドネシアおよびタイにおけるうどんこ病菌採集をさらに行う.うどんこ病菌は胞子を広く飛散させるので,広い地域で遺伝的な際は少ないと考えられてきた.しかし,これまでの研究で,ブナ科樹木に寄生する熱帯特有の種では狭い地域に適応して多様化しているうどんこ病菌の存在が示唆されている.そのため,特にブナ科樹木に寄生するうどんこ病菌に焦点をあて,熱帯におけるうどんこ病菌の局所適応の有無を検証したいと考えている. 2)Pseudoidium属菌の系統解析と多様性獲得機構の解明 Pseudoidium属菌はうどんこ病菌の全種の半数以上を占める最大のグループであるが,現在まで大規模な系統解析は行われていない.本研究の最終段階として,Pseudoidium属菌に焦点を絞り込み,本グループにおける多様性獲得機構を宿主植物との関連から解析し,他のグループと比較しながら検討する.約400シークエンスを用いた大規模解析になる予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
1)海外出張旅費 インドネシア他,東南アジアでのうどんこ病標本採集のための旅費.学生を1名随行する予定.北京で8月開催予定のアジア国際菌学会でシンポジウムの世話役と基調講演を行うことになっているので,この旅費も支出する予定. 2)国内出張旅費 学会参加旅費および国内でのうどんこ病標本採集のための旅費として使用予定. 3)DNA解析用試薬類 PCR用ポリメラーゼ,アガロース,DNAマーカー,プライマー他 4)DNAシークエンス委託費 1000円/ 1 run×500 run程度
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