研究課題/領域番号 |
23580062
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小林 一成 三重大学, 生命科学研究支援センター, 教授 (90205451)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イネ / いもち病菌 / 侵入抵抗性 / 次世代シーケンサー / オミックス解析 |
研究概要 |
宿主の異なるいもち病菌5菌群(Magnaporthe oryzae;イネ菌、アワ菌、キビ菌、シコクビエ菌およびM. grisea;メヒシバ菌)の計6菌株について次世代シーケンサーを用いたリシーケンス解析を行った。イネ菌株KEN53-33、84-10Bの2菌株と参照ゲノムである70-15(MG8)を比較すると、SNPを含む遺伝子の割合がそれぞれ全遺伝子の11.1、10.6%と低かった。イネ菌株同士の場合と比較して、アワ菌(37.9%)、キビ菌(34.3%)由来のM.oryzaeではSNPの割合が高かった。さらにシコクビエ菌(61.8%)メヒシバ菌(73.7%)では極めて多くの遺伝子にSNPが確認された。これに加えて、各菌株のゲノム解析から得られた8つのハウスキーピング遺伝子配列を用いた系統解析の結果から、キビ菌がイネ菌に最も近い菌群と考えられたことから、アワ菌を用いる計画を変更して以後の解析をキビ菌を用いて行うこととした。ゲノム解析の結果を用いて、イネ菌株では保存されている一方、他の全菌株で共通に欠失していた遺伝子を探索したところ、40の遺伝子がこれに該当し、この中にはAvr-PitaやBAS1等のエフェクタータンパク質をコードする重要遺伝子が含まれていた。したがって、これらの遺伝子には、イネ菌の宿主特異性に関与する因子が含まれている可能性が考えられる。 さらに、世代シーケンサーによるイネの遺伝子発現応答を解析する前段階として、イネ菌またはキビ菌を接種したイネにおける転写物をマイクロアレイによって解析した。この結果、イオントランスポーター、転写因子および抗菌性タンパク質をコードする複数の遺伝子がキビ菌接種によって特異的に発現上昇することが明らかになった。今後、これらの結果との整合性を確認しながら次世代シーケンサーによる転写物解析を行う必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、現在までほとんど未解明のままである植物の強力な防御応答である侵入抵抗性の分子基盤を明らかにすることである。この目的を達成するため、オミックス解析手法を用いて、侵入抵抗性に関与するイネ側の重要因子の単離を単離するとともに、これらの情報をもとにしてイネいもち病菌がイネの侵入抵抗性を回避する機構の理解を目指している。 今年度行った次世代シーケンサーによるいもち病菌のゲノムリシーケンシング解析より、イネ菌に特異的に存在するエフェクター様タンパク質をコードする複数の遺伝子が存在することが明らかになった。これらの遺伝子に既知のエフェクター遺伝子が含まれていたことから、本研究の初年度において、いもち病菌がイネの侵入抵抗性を回避する機構を解明するための有力な手がかりを得たと言える。 一方、イネの侵入抵抗性に関与する因子の探索に関しても、次世代シーケンサーによる転写物解析の前に行ったマイクロアレイ解析によって、これまでにイネの非宿主抵抗性に関与することが知られていない多くの遺伝子がキビ菌接種によって特異的に発現上昇することが明らかになった。これらの結果は、次年度以降に行う転写物解析の際に重要な参照データとなるものであり、本年度の成果によって次世代シーケンサーを用いた解析のための基礎固めが完成した。 以上に述べてきた通り、本年度に実施した研究は概ね計画通りに進行しており、得られた研究成果は本研究の最終的な目標に向けて順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
いもち病菌のゲノムリシーケンシング解析よって見出されたイネ菌特異的エフェクター遺伝子の機能を解明するため、感染過程におけるこれらの遺伝子の発現時期を明らかにするとともに、GFP融合タンパク質をイネいもち病菌に発現させ局在性を確認する。これらの実験により、候補遺伝子産物が感染初期に特異的に発現するか否か、また付着器や感染菌糸などの感染構造特異的に発現するか否かを明らかにする。さらに、これらの遺伝子のcDNA配列の一部を遺伝子破壊用ベクターに組み込み、イネいもち病菌を形質転換して、相同組み換えによる遺伝子破壊株を作製する。これらの遺伝子破壊株をイネに接種し、イネ細胞への侵入過程に変化が見られるか否か、またイネ対する病原性が低下するか否かを調べる。 また、イネ側の侵入抵抗性に関与する因子を探索するために、次世代シーケンサーによる転写物解析を実施する。この方法で解析することにより、主にイネ側の遺伝子発現を明らかにすることができるが、十分に多くのデータが得られた場合はいもち病菌側の転写物も検出できる可能がある。そこで、得られたデータはイネおよびいもち病菌のゲノムに対してマッピング解析を行うこととする。この方法であられたデータは、今年度得られたイネのマイクロアレイデータおよびいもち病菌のリシーケンシングデータを参照して、侵入抵抗性及びその回避に関与する可能性がある遺伝子であるか否かの検証を行う。 さらに、今年度予備的に行ったプロテオーム解析の結果、イネに接種したいもち病菌のタンパク質を検出することは極めて困難であることが判明したため、プロテオーム解析に関してはイネ側のタンパク質のみを標的にすることとする。次年度は、二次元電気泳動とMALDI-TOF-MSを用いてキビ菌感染特異的に発現変化するスポットのタンパク質同定を行うこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、主にいもち病菌の形質転換、遺伝子発現解析およびプロテオーム解析に用いる消耗品の購入に600千円を充てる。次年度に京都で開催される予定の第15回国際分子・植物・微生物相互作用学会に研究成果を発表する経費として300千円を充てる。また、本研究を遂行するために研究補助パート職員の雇用のために300千円を充てる。さらに、昨年度未使用であった700千円余りは、マイクロアレイによる基礎固めを先行して行ったため実施しなかった次世代シーケンサーによる転写物の解析に充てる予定である。
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