研究課題/領域番号 |
23580063
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
伊藤 真一 山口大学, 農学部, 教授 (30243629)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | Fusarium oxysporum |
研究概要 |
タマネギ乾腐病菌 (FOC)は、培養にタマネギの抗菌サポニンを添加すると、タマネギ細胞に 壊死を引きおこすタンパク質(NIP8)を分泌する。このことから、NIP8はFOCの病原性において何らかの役割を果たしている可能性が示唆される。本研究は、NIP8遺伝子破壊株およびNIP8タンパク質過剰発現株を作製し、FOCの病原性におけるNIP8遺伝子の役割を探るとともに、NIP8タンパク質と相互作用する宿主分子(標的分子)を明らかにすることを目的とする。 NIP8タンパク質のアミノ酸配列を基づいて設計した縮重プライマーを用いて、NIP8cDNAをクローン化し、さらに5'RACE法によってcDNA全塩基配列を得た。この配列から推定されるORFは、20アミノ酸のシグナル配列を含む100アミノ酸残基で、クラスIIハイドロフォビンの特徴である8個のシステイン残基を有していた。また、NIP8は、本来のタンパク質(8.2 kDa)のC末端側51アミノ酸残基断片(5.3 kDa)であることが明らかになった。すなわち、ハイドロフォビンがプロセシングされて生じるタンパク質断片がタマネギ細胞に壊死を引きおこすと考えられた。NIP8遺伝子は、FOCゲノム中に単コピーで存在し、5'転写調節領域にはカタボライト応答配列がみられた。実際に、FOCのNIP8遺伝子は炭素源存在下で発現が抑制され、炭素源非存在下で誘導されることがRT-PCRによって確認された。 NIP8遺伝子破壊株およびNIP8タンパク質過剰発現株を作製し、諸性質(形態、生育速度、胞子形成能、ストレス耐性、病原性)について調査した。この結果、NIP8遺伝子破壊株の性質はヒ素耐性が低下した以外は野生株と差異がみられなかった。また、NIP8タンパク質過剰発現株は、気中菌糸を豊富に形成したが、それ以外は野生株と差異がなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画(タマネギ乾腐病菌NIP8遺伝子のクローン化・構造解析、NIP8遺伝子欠損株および過剰発現株の作製とそれらの病原性解析)が予定通りに進んだため。
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今後の研究の推進方策 |
1.タマネギ乾腐病菌(FOC)のNIP8遺伝子破壊株およびNIP8タンパク質過剰発現株の病原性:23年度は、タマネギ乾腐病菌(FOC)のNIP8遺伝子破壊株およびNIP8タンパク質過剰発現株の病原性を、タマネギ幼苗の立枯れによって判定した。その結果、これらの株の病原性は野生株と差がなかった。しかしながら、乾腐病の病徴は生育中・後期に表れる方が多い。そこで、24年度の接種試験では、タマネギを長期間栽培し、タマネギ乾腐病菌(FOC)のNIP8遺伝子破壊株およびNIP8タンパク質過剰発現株の病原性を判定する。2.宿主組織におけるNIP8遺伝子の発現:NIP8 cDNAの塩基配列をもとづいてリアルタイムRT-PCRプライマー設計し、FOCを接種したタマネギ(ネギ)の組織(根、盤茎、葉鞘)におけるNIP8遺伝子の発現を経時的に解析する。3.抗NIP8タンパク質抗体の作製:23年度の予備実験によって、NIP8タンパク質5.3 kDa断片は、大腸菌および酵母では生産が困難であることが判明した。そこで、NIP8遺伝子を破壊したFOC(23年度に作製済み)を形質転換してNIP8タンパク質5.3 kDa断片の生産を試みる。得られた組換タンパク質でウサギを免疫することによって、抗5.3 kDa断片抗体を得る。この抗体を用いて免疫沈降を行い、5.3 kDa断片と相互作用する宿主タンパク質を特定する。4.FOCのハイドロフォビンファミリーの機能:23年度の予備実験によって、FOCには配列が異なる5つのハイドロフォビン遺伝子が存在することが判明した。そこで、24年度はこれら5つのハイドロフォビン遺伝子すべてを破壊した株を作製し、FOCのハイドロフォビンファミリーの機能を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.物品費(800,000円) 抗NIP8タンパク質抗体抗血清タマネギ乾腐病菌(FOC)のNIP8遺伝子破壊株およびNIP8タンパク質過剰発現株の病原性、宿主組織におけるNIP8遺伝子の発現、FOCのハイドロフォビンファミリーの機能に関する実験において必要となる試薬および実験器具類の購入に使用する。2.旅費(100,000円) 学会発表のための旅費として使用する。
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