研究課題
申請者らは先に、いもち病菌由来の非病原力遺伝子avrPikにA~Eの5種類のアリルが存在することを明らかにしている(Yoshidaら2009)。一方、対応するイネ抵抗性遺伝子として、Pik・Pik-m・Pik-p・Pik-s・Pik-hが同じ遺伝子座に存在することから、これらはPikアリルであることが示唆されている。また、PikアリルであるPikmとして、2種のNBS-LRRタンパク質遺伝子Pikm1とPikm2が本体として単離同定されている(Ashikawaら2008)。これらのavrPikアリルとPikアリルとの間の相互作用について以下のことが明らかとなった。(1)いもち病菌接種による抵抗性検定、及びイネ一過的過敏感細胞死検定をおこない、いもち病菌由来avrPikアリルがイネPikアリルに特異的かつ階層的に認識されることを明らかにした。(2)avrPik-Pik間のタンパク質間相互作用についてそれぞれのアリルを用いて検討した結果、avrPikは遺伝子変異が高いPik1のCoiled-Coilドメイン(CC)に特異的かつ直接的にタンパク質相互作用することを明らかにした。(3)avrPikとPikのアリル間でのタンパク質相互作用は抵抗性反応の特異的認識のパターンと一致することを明らかにした。(4)進化解析の結果、Pik1とPik2はそれぞれ2種のグループに分かれること、avrPikアリルは抵抗性認識の程度が高いDアリルが最初に出現したこと等が明らかとなった。 以上の結果を総合すると、イネPikはいもち病菌avrPikとの共進化の中で、PikとavrPikにおけるタンパク質直接的結合を介して抵抗性を獲得し、Pik1の変異がavrPikアリルに対する抵抗性認識に重要な役割を担っていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
階層的抵抗性の免疫学的機構を明らかにするために、本研究計画に挙げた次の内容を実施した。すなわち、イネ抵抗性遺伝子Pikアリル及びいもち病菌非病原力遺伝子avrPikアリルの配列決定、Pik1・Pik2及びavrPikの間におけるタンパク質相互作用の証明、Pikアリル及びavrPikアリル間でのタンパク質相互作用マップの作成などについて研究をおこなった。そして、階層的抵抗性の成立が抵抗性遺伝子と非病原力遺伝子との間でのタンパク質相互作用の有無で決定されるというという研究成果を得た。本研究成果は、全植物において数例目、日本の主要穀類であるイネにおいては初めての知見であり、植物病理学のみならず植物育種学上においても重要な知見となるものと考えている。さらに、本研究成果を国際学術雑誌に投稿し、学会にも2度発表報告するに至った。その意味で、本研究は、概ね順調に進展していると思われる。
階層的抵抗性の免疫学的機構については概ね研究成果を出すことができたと思われる。一方、植物の病害抵抗性遺伝子として2種のNBS-LRR遺伝子が関与する例が、近年、多く報告されているが、その機構について全く解明が進んでいないのが現状である。この機構を明らかにすることは、病害克服への新たな切り口になりうるものと考えている。 申請者らは先に、いもち病菌より3種の非病原力遺伝子avrPik・avrPia・avrPia、及びイネより対応する抵抗性遺伝子Piaを単離同定した。この中で、本研究で解析を進めたavrPikとPik、及びavrPiaとPiaが、非病原力遺伝子と抵抗性遺伝子の両者を併せ持つ組合わせであり、それぞれ本体として2種のNBS-LRR遺伝子をもつ。これらを使用して、2種のNBS-LRR遺伝子、及び非病原力遺伝子がお互いにどのように機能して、抵抗性応答を誘導するのかを明らかにする。具体的には、抵抗性遺伝子と非病原力遺伝子の3者間のタンパク質相互作用の解析、或いは3者の様々な組合わせによる細胞死誘導能の解析等を通じて、その抵抗性誘導機構を明らかにしていく。
2種の抵抗性遺伝子の関与する抵抗性誘導機構についての解明を第一に研究を進める。特に、免疫学的機構の解析に必要となる酵母Two-hybrid試薬・エピトープタグを認識する抗体・オリジナル抗体の作製・プルダウン解析のためのカラム等を購入するために研究費を使用する。またその他に、ベクター構築に必要なプライマー作製・シークエンス試薬等の購入に使用する。さらに、研究を遂行する上での情報収集や研究成果発表のために、学会参加等の旅費にも使用する。場合によっては人件費等に充てることもあり得る。
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Nature Biotechnology
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PLANT Journal
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