研究課題
昨年度までに、イネ抵抗性遺伝子Pikはいもち病菌(Magnaporthe oryzae)由来のAvrPikとの共進化の中で、PikとAvrPikにおけるタンパク質直接的結合を介して抵抗性を獲得し、Pik1の変異がAvrPikアリルに対する抵抗性認識に重要な役割を担っている、との知見を得た。この研究成果については、査読付き国際雑誌PLANT Journalにて報告した。また、イネにおける2種のNBS-LRR遺伝子から構成される(Dual抵抗性遺伝子)いもち病抵抗性遺伝子PiaとPikの抵抗性誘導機構について解析を進めた。Pikを構成するPik1とPik2の過剰発現試験の結果、両者が存在して初めて細胞死を誘導することを明らかにした。一方、Piaを構成するRGA4とRGA5の過剰発現試験の結果、RGA4は単独で細胞死誘導能をもちRGA5はその誘導を抑制すること、AvrPiaの直接的なRGA5との相互作用によってその抑制を打破すること、等の知見を得た。Piaにおけるこれらの結果は、T.Kroj研(INRA)及び島本研(NAIST)との共同研究によって投稿準備を進めている。またさらに、AvrPikのもつeffector機能を明らかにする目的で、AvrPik結合タンパク質の探索をおこなったところ、数種の低分子量のHeavy Metal Associated domain protein (HMA) 遺伝子が単離同定された。これらのHMA遺伝子は、抵抗性遺伝子Pik1のAvrPik認識に関わるN末のCoiled-coil領域と高い相同性を有していた。現在、これらのHMA遺伝子の機能について解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
当初の主研究目標であった”イネといもち病菌との間の階層的抵抗性の相互作用の機構の解明”については、抵抗性遺伝子と非病原力遺伝子とのアリル間での直接的タンパク質相互作用の程度が特異的認識を決定する、との結果を得、国際雑誌に投稿という形でまとめることができたことで、順調に進展してきたものと考えている。一方、”イネの抵抗性遺伝子を構成する2種のNBS-LRR(Dual抵抗性遺伝子)の抵抗性機構の解明”については、イネ抵抗性遺伝子Piaを構成する一方のNBS-LRRがもう一方のNBS-LRRを抑制するという新規な知見を得た。また、別の抵抗性遺伝子PikのDual抵抗性遺伝子としての機能解明は、未だ不明な点が多く、総じて概ね順調に進展していると考えている。また、いもち病菌の非病原力遺伝子AvrPikのeffectorとしての機能の解明という目的で、AvrPikの結合タンパク質の候補の同定を行い、この点では当初の計画以上の進展がみられたものと考えている。
2種のイネ抵抗性遺伝子(Dual抵抗性遺伝子)の関与する抵抗性誘導機構についての解明を目標に、Piaに関する論文投稿、及びPikに関する抵抗性誘導機構について研究を進める。本研究を進めることで、しばらく停滞感のある植物の病害抵抗性遺伝子研究分野のbreak-throughになるものと期待される。また、病原菌の分泌タンパク質(effector)が植物の抵抗性反応を抑制することが、感染成立に重要な役割を担っていると考えられている。いもち病菌由来の分泌タンパク質であるAvrPikも、この様なeffector機能を持つと考えられる。AvrPikのeffector機能を解明する目的で、AvrPikのイネ結合候補遺伝子であるHMAについてその機能解析を進める。本研究は、植物と病原菌との相互作用に関する新たな知見となり、且つ抵抗性育種においても貢献ができるものと期待される。
いもち病菌非病原力遺伝子AvrPikのeffector機能の解明、及び2種のイネ抵抗性遺伝子の関与する抵抗性誘導機構についての解明を目標に研究を進める。特に、免疫学的機構の解析に必要となる酵母Two-hybrid試薬・エピトープタグを認識する抗体・オリジナル抗体の作製・プルダウン解析のためのカラム等を購入するために研究費を使用する。またその他に、ベクター構築に必要なプライマー作製・シークエンス試薬等の購入に使用する。さらに、研究を遂行する上での情報収集や研究成果発表のために、学会参加等の旅費にも使用する。場合によっては人件費等に充てることもあり得る。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
Plant Cell
巻: 25 ページ: 1463-1481
10.1105/tpc.112.107201
PLANT Journal
巻: 72 ページ: 894-907
10.1111/j.1365-313X.2012.05110.x
J. Plant Biochem. Biotechnol.
巻: 21 ページ: 10-14
10.1007/s13562-012-0133-2
Gene and Genetic Systems.
巻: 87 ページ: 169-179
10.1266/ggs.87.169