研究課題/領域番号 |
23580069
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
落合 正則 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (10241382)
|
キーワード | 自然免疫 / 昆虫 / サイトカイン / プロテアーゼ / 微生物 |
研究概要 |
昆虫が細菌やカビなどの微生物に感染した場合、体液中で液性と細胞性の免疫反応が起こる。ENFペプチドは昆虫サイトカインとして多様な生理活性をもつことが明らかになっており、そのひとつである血球活性化作用は細胞性免疫反応と密接な関係がある。普段体液中では不活性な前駆体として存在しているENFペプチド前駆体(proENF)は、微生物に感染すると限定加水分解されて活性化すると考えられている。本研究はこのサイトカイン前駆体の活性化機構を解析し、昆虫の微生物感染に対する細胞性免疫反応と液性免疫反応の連携の分子機構ついて理解を深めることを目的にしている。研究期間内にカイコのENFペプチド前駆体活性化酵素(pENF processing enzyme;pEPE)の同定、組織における局在性、発現調節機構及び液性免疫系とこの酵素の相互作用について検討する予定である。このうち、pEPEの精製は平成23年度にほぼ終了し,24年度は以下の研究を行う計画であった。 1. pEPEの構造解析 : 精製標品の部分配列解析をもとにハイブリダイゼーション用のプローブを調製し、定法に従いcDNAのクローン化を行う。得られた一次配列情報よりその機能や構造について推定し、pEPE自体が限定加水分解などにより活性化される可能性について検討する。 2. pEPEの組換え体発現系 : 得られたcDNAクローンを元に大腸菌と昆虫細胞を用いた発現系を確立し、組換え体と特異抗体を調製する。 3. pEPEの発現様式 :カイコ組織におけるpEPE mRNAの発現様式を調べ、細菌や真菌の感染による発現制御の可能性について探る。 このうち、構造解析及び組換え体発現系の確立は終了し,pEPEの発現様式を調べている最中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的にあげた3つの項目のうち、1. pEPEの構造解析についてはLC-MS解析及び部分配列解析を行い、cDNAより一次配列情報を得た。また、2. pEPEの組換え体発現系の確立は順調に実施し、大腸菌発現系から調製した組換え体を抗原としてpEPEに対する特異抗体を得ることができ、昆虫細胞発現系を用いて組換え体pEPEの精製法を確立した。現在、昆虫細胞発現系からの組換え体pEPE精製標品を大量調製しており、平成25年度に予定している血球突起伸長反応の解析や液性免疫系との連携を調べるために使用する計画である。3. pEPEの発現様式に関しては定量的RT-PCR法により発現組織を特定したが、pEPEに対する特異抗体を用いた局在性の解析は引き続き行う予定である。以上のことから研究はほぼ順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度に終了する予定であった免疫電顕によるpEPEの局在性の解析を引き続き行う。その後、研究目的にあげた平成25年度の研究計画に沿って、pEPEの生理機能の解析と血漿中の異物認識分子よりそのシグナルが伝わってpEPEが活性を発現するメカニズムについて調べる。具体的には以下の研究を行う予定である。 1. 血球突起伸長反応の解析 : in vitroにおいて、pEPE、ENFペプチド前駆体、プラズマ細胞を用いた突起伸長反応の再構成を試みる。その際、細菌やカビなどの病原菌に対する異物認識蛋白質の存在下での伸長反応の解析を行い、異物認識蛋白質とpEPEの相互作用の有無についても知見を得る。 2. 液性免疫系とENFペプチド前駆体活性系の連携 : メラニン形成系と抗菌ペプチド合成系の既知の構成因子は既に昆虫由来の培養細胞での発現系によって充分量の精製標品を得ることができる。これらにpEPEの精製標品を加え、ENFペプチド前駆体活性化の可能性をみる。各構成因子間の相互作用や酵素反応速度論的知見を得るとともに、生体内でのENFペプチド前駆体活性化の制御について考察する。 以上、細胞性免疫におけるpEPEの役割を血球突起伸長反応の解析により明らかにし、pEPE分子自体の活性化の分子機構を解析することで、細胞性生体防御系と液性免疫系であるメラニン形成系/抗菌ペプチド合成系との連携のメカニズムについて新たな知見を得たい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に行う予定であったpEPEの構造解析は計画を変更して24年度に行い、東日本大震災の影響で23年度は見送った研究補助員の雇用も24年度に行った。23年度から繰り越した研究費用のほとんどは24年度中に消費した。24年度の多くは昆虫細胞発現系を用いた組換え体pEPEの精製法の確立に費やし、クロマトグラフィー装置を酷使したことから、この装置の制御用コンピューターとモニター装置に不調をきたした。このうちコンピューターは24年度に更新できたが、モニター装置は不調部品の特定と部品調達が遅れたため、25年度に部品更新を行うこととし、そのための費用を25年度に繰り越した。平成25年度は昆虫培養細胞での発現系によって液性免疫系に関与する因子を含む10数種類の蛋白質精製標品を調製しなければならず、その培養と精製に請求する研究費の多くを使用する予定である。また、25年度も当初の計画通り、研究補助員を雇用して上記の研究目的を達成するため研究を推進する。
|