研究課題
コナガの複合的殺虫剤抵抗性機構を明らかにするために、合成ピレスロイド剤抵抗性と有機リン剤抵抗性に関わる遺伝子変異の関係を明らかにしようとした。報告者は、合成ピレスロイド剤抵抗性に関わるナトリウムチャネルの遺伝子変異に関しては、すでにデータを揃えていた。有機リン剤抵抗性に関わるアセチルコリンエステラーゼ1(AChE1)遺伝子の変異を個体ごとにに調べるために、室内および野外のコナガ系統における抵抗性型のAChE1遺伝子の頻度を個体ごとに調べようとしたが、判別できないヘテロ個体が半数以上を占めたため断念した。判別できない理由は、ダイレクトシーケンシングにおける抵抗性型の塩基と感受性型の塩基の比率が著しく不均等なためであった。AChE1遺伝子のイントロン配列の解析により、この著しく不均等なシーケンシングパターンは遺伝子重複によって生じていることが明らかとなった。また定量PCRにより、遺伝子重複の程度は野外系統でより高いことが明らかとなった。AChE1の遺伝子重複は一部のハエ目昆虫やハダニで知られていたがチョウ目昆虫では初めての発見となった。ハエ目やハダニでは遺伝子重複は、抵抗性型アミノ酸による適応度の低下を補償するために進化したと考えられたが、コナガでは抵抗性型アミノ酸による適応度の低下は見られず、他の理由により重複が進んだと考えられた。ハダニではAChE1遺伝子のコピー数と有機リン剤抵抗性レベルとの間には有意な相関が認められたが、コナガでは両者間に相関は認められなかった。コナガの有機リン剤抵抗性には、AChE1のアミノ酸変異以外にも、グルタチオン転移酵素による解毒分解が関与していることが報告されている。コナガでは複数のメカニズムが有機リン剤抵抗性に関わっており、それらのメカニズムの抵抗性への関与の度合いは系統によって異なっていると考えられた。
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Insect Biochemistry and Molecular Biology
巻: 48 ページ: 83-90
10.1016/j.ibmb.2014.02.008