研究概要 |
チョウ目昆虫の持つ環境(季節)適応調節機構のなかで, 外部刺激(日長や温度)に応じて, 蛹や翅の体色変化(表現型可塑性)を誘導する神経内分泌調節因子に着目している。ナミアゲハ休眠蛹に特有なオレンジ色の体色は, 終令幼虫の中・後胸神経節-腹部神経節連合体に存在するオレンジ色蛹誘導化因子(Orange-Pupa-Inducing-Factor : OPIF)の分泌により発現する。一方, 非休眠蛹の体色には, 2つの型(緑色・褐色型)があり, 脳-食道下神経節-前胸神経節連合体に存在する蛹表皮褐色化ホルモン(Pupal-Cuticle-Melanizing Hormone: PCMH)の分泌により褐色の蛹体色が発現する。また, ヒメアカタテハの蛹には褐色型と淡色型があり, 脳-胸部神経節-腹部神経節連合体に存在する淡色化因子の分泌により, 淡色型の蛹が生じる。本年は,まず, ナミアゲハ幼虫の脳神経系からOPIF・PCMHならびにヒメアカタテハ幼虫の脳神経系から淡色化因子を単離精製するために,ナミアゲハ幼虫・ヒメアカタテハ幼虫を長日条件下で飼育し, 5齢幼虫の脳神経節連合体を集めている状況である。別に、ジャコウアゲハの蛹体色調節機構の基礎研究として, ジャコウアゲハ幼虫を長日条件下で大量に飼育し, 5齢幼虫を実体顕微鏡下で解剖し, 2,000個以上の脳神経節連合体を集め, ジャコウアゲハの脳神経系抽出物を調製し、ジャコウアゲハの蛹体色因子の生物検定方法を確立し, 因子の特徴づけを行なった。また, 黄色型と褐色型蛹の表面構造解析を走査型電子顕微鏡による解析が進行中である。特に, ジャコウアゲハ休眠蛹体色に体色多型が存在し、湿度・温度により休眠黄色型および休眠褐色型の発現が調節されていることを初めて明らかにした。
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