研究課題/領域番号 |
23580074
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
手林 慎一 高知大学, 教育研究部自然科学系, 准教授 (70325405)
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研究分担者 |
間世田 英明 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (10372343)
及川 彰 山形大学, 農学部, 准教授 (50442934)
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キーワード | イネ / オカボノアカアブラムシ / セロトニン / トリプトファン / 褐変 / ペルオキシダーゼ / 抵抗性 / 防御機構 |
研究概要 |
申請者はオアカボノアカアブラムシがイネの幼根に寄生すると植物体中に特定のアミノ酸が選択的に蓄積される現象を見出し、本研究ではこのアミノ酸の選択的蓄積機構を有機化学的、生化学的、分生物学的に解明することを目指している。 現在までにオアカボノアカアブラムシがイネ幼根に寄生した際に生じる遺伝子発現の変動をマイクロアレイにより解析し、各種アミノ酸の生合成酵素やこれらの上流の生合成経路に関する遺伝子発現が増大することを見出し、アミノ酸類は寄生部位で生合成され蓄積していることを明らかにしてきた。さらに、蓄積量が変動しなかったトリプトファンは、生合成遺伝子の発現量は増大しているものの、トリプトファンからトリプタミンへ変換するトリプトファンデカルボキシラーゼの転写量も増大し、最終的にセロトニンとして一過的に蓄積することを解明できた。この蓄積が一過的であるのはセロトニンを代謝するペルオキシダーゼの活性の上昇により消費されるために生じることもあわせて解明できた。また、ペルオキシダーゼの上昇とともに根は褐変し硬化することから一種の防御機構が誘導されているものと考えられた。さらに蓄積されたセロトニンはオカボノアカアブラムシの幼虫の成育を強く阻害することを見出した。このことからオカボノアカアブラムシはイネに寄生することで自身の生育に必要なアミノ酸を蓄積させイネを利用する一方で、イネもアブラムシに対する抵抗性を2段階で発現させ、自己防衛を行っていることを解明した。 研究はほぼ完遂できたもののアミノ酸の生合成にかかわる酵素活性が実際に上昇してるかどうかの確認が出来ておらず、今後はグルタミンシンテースおよびアスパラギンシンテースをターゲットに絞り酵素活性の測定を行った後に、研究成果のとりまとめを行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度に実施したオカボノアカアブラムシがイネ幼根に寄生した際に生じる遺伝子発現変動のマイクロアレイによる網羅的測定結果を24年度には詳細に解析し、特定のアミノ酸の生合成関連遺伝子が多量に発現しているのと同時に、アミノ酸合成に係るより上流の生合成経路(解糖系やTCA回路などを含む)の遺伝子発現が増大することを突き止めることができた。即ち、アブラムシの寄生によりアミノ酸に関連する代謝系が全体的に活性化することを明らかにした。さらに蓄積量が変動しなかったトリプトファンは、生合成遺伝子の発現量は増大しているものの、トリプトファンからトリプタミンへ変換するトリプトファンデカルボキシラーゼの転写量も増大し、最終的にセロトニンとして蓄積することを解明できた。 このセロトニンの蓄積は一過的であったが、これはセロトニンを代謝するペルオキシダーゼの活性の上昇がセロトニン生合成酵素の発現に遅れて上昇することにより生じることを25年には解明できた。また、ペルオキシダーゼの上昇とともに根は褐変し硬化することあわせて解明できた。さらに蓄積されたセロトニンはオカボノアカアブラムシ幼虫の成育を阻害することも見出した。このことからオカボノアカアブラムシはイネに寄生することで自身の生育に必要なアミノ酸を蓄積させイネを利用する一方で、イネもアブラムシに対する抵抗性を2段階(セロトニン蓄積による幼虫生育阻害による化学防御と根の褐変硬化による物理的防御)で発現させ、自己防衛を行っていることを見出した。 イネはアブラムシの加害により一方的に自身の生理変化を強いられているわけではなく、相手からの誘導の一部を逆手に取り抵抗性機構を二重にも発現させることで加害を跳ねのける能力を持つことを見出した。このように計画通り研究の進展が行えたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、オアカボノアカアブラムシがイネ幼根に寄生した際に生じる遺伝子発現の変動をマイクロアレイにより解析し、各種アミノ酸の生合成酵素やこれらの上流の生合成経路に関する遺伝子発現が増大することを見出し、アミノ酸類は寄生部位で生合成され蓄積していることを明らかにしてきた。さらに、蓄積量が変動しなかったトリプトファンは、生合成遺伝子の発現量は増大しているものの、トリプトファンからトリプタミンへ変換するトリプトファンデカルボキシラーゼの転写量も増大し、最終的にセロトニンとして一過的に蓄積することを解明できた。このようにアミノ酸蓄積の選択性は生合成系の活性化程度でというより代謝経路の活性化の強弱や発現時期によるものであることが判明し、研究はほぼ完遂した。しかしながら生合成にかかわる酵素活性が実際に上昇しているかは確認していない。そこで今後はこの機構の最終的な確認を行うために、グルタミンシンテースおよびアスパラギンシンテースの酵素活性の経時的変化の測定を行う。これらのなかで植物の栽培、アブラムシの飼育、試料の調整、酵素活性の測定は高知大学で行い、この酵素活性データの補完のために、遺伝子発現解析とアミノ酸動態解析をそれぞれ徳島大学、山形大学で行う。具体的な手法は以下の通りである。 植物試料調整方法(高知大学):播種4日後のイネ芽生え(品種:日本晴)にオカボノアカアブラムシの有翅虫を接種し、人工気象器内で栽培し、イネの根を化学分析・遺伝子解析の試料に供する。 アミノ酸分析方法(山形大学):極微量の試料からアミノ酸を検出するためにCE-TOFMS分析を行う。 酵素活性解析方法(高知大学):具体的な測定方法は試行錯誤的に選択されるが文献などを基に定法により測定を行う。 遺伝子解析方法(徳島大学): すでに作製したイネ幼根のcDNAライブラリを使用しqRT-PCRにて遺伝子発現量を定量する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、イネ根における遺伝子発現および酵素発現の経時的変動解析およびメタボローム解析、セロトニンの機能解析を行った。1 計画通り執行した。一方、遺伝子発現および酵素発現量を定量するためのRNA抽出・cDNA合成、および酵素活性測定にかかる消耗品費(767,341円)および旅費(33,220円)以外の約550,000円は別途確保した恒常的経費を用いて研究を遂行したため467,542円の繰越金が発生するに至った。 本年度は取りまとめを中心に研究を遂行するが、残された課題である、アスパラギンシンテースに関連する代謝動態解析のため次の3小課題を実施する。すなわちアブラムシ寄生によるGlnおよびAsn生合成に関連する、①代謝産物の経時的動態解析、②酵素活性の経時的動態解析、③遺伝子の経時的動態解析、である。 そのため高知大学では生物試料調整費(50千円)、酵素活性測定試薬費(50千円)、研究成果公表費(150千円)の合計250千円を計上し、徳島大学では分子生物試薬費(117, 542円)、プラスチック器具費(50千円) 、研究成果公表費(100千円)の合計367,542円を計上し、山形大学ではメタボローム解析に必な消耗品費(150千円)、およびプラスチック器具費(150千円) 、研究成果公表費(100千円)の合計400千円を計上した。 これらはいずれも本申請課題を遂行するために必要な経費である。また、経費が不足する場合は各員にて恒常的経費を用いて研究を遂行する予定である。
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