研究課題
申請者はオアカボノアカアブラムシがイネの幼根に寄生すると植物体中に特定のアミノ酸が選択的に蓄積される現象を見出し、本研究ではこのアミノ酸の選択的蓄積機構を有機化学的、生化学的、分生物学的に解明することを目指してきた。昨年度までにオアカボノアカアブラムシがイネ幼根に寄生した際に生じる遺伝子発現の変動をマイクロアレイにより解析することで、各種アミノ酸の生合成酵素やこれらの上流の生合成経路に関する遺伝子発現が増大することを見出し、アミノ酸類は寄生部位で生合成され蓄積されていることを推定してきた。本年度はアブラムシの生育にとって鍵と言えるグルタミンを生合成するグルタミンシンテースの酵素活性を測定し、アブラムシの寄生後にイネ根でこの酵素活性が約3倍に上昇することを確認した。この結果からアブラムシがイネの幼根に寄生すると植物体中に特定のアミノ酸が選択的に蓄積される現象は、寄生者が寄生部に自身が必要とする栄養素をde novoで植物に生合成させていることを解明するに至った。一方、蓄積量が変動しなかったトリプトファンでは、トリプトファンの生合成遺伝子の発現量は増大しているものの、トリプトファンの代謝遺伝子の転写量も増大し、見かけ上は変動が確認されないことを明らかにした。これらのことから、すべてのアミノ酸の生合成経路が活性化するものの、代謝経路の活性化の程度は異なっており、これにより各アミノ酸の役割(運命)が異なることを解明した。具体的にはトリプトファンは速やかに代謝されセロトニンとして一過的に蓄積しアブラムシの生育を抑制する上、重合・褐変し細胞壁を強化することでも抵抗性を示していた。このようにオカボノアカアブラムシはイネに寄生することで自身の生育に必要なアミノ酸を蓄積させイネを利用している一方で、イネもアブラムシに対する抵抗性を2段階で発現させ、自己防衛を行っていることを解明した。
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Biosci Biotechnol Biochem,
巻: 78 ページ: 937-942
http://www.geocities.jp/organicchemistrykochi/study-rice.html