イモゾウムシ病原性原虫の感染増殖様式及び生活環を解明するため、原虫oocystを接種したイモゾウムシの組織切片を経時的に作製して光顕下で観察した。本原虫の生活環はFarinocystis triboliiのものに類似していたが、その一部は本原虫特異的と考えられ、新規の感染増殖様式をもつ可能性が示唆された。 本原虫の宿主範囲及び病原性を調査するため、鞘翅目昆虫数種にoocystを接種した後、組織切片を作製して光顕下で観察するとともに、ゲノムDNAを抽出して後述の検出法により原虫感染を確認した。本原虫の宿主範囲は非常に狭いことが判明した。また、本原虫はイモゾウムシ以外のゾウムシ上科昆虫にも感染はするものの、増殖は起こらないと推察された。 本原虫の18S rDNAの一部塩基配列を決定した後、この情報を基に特異性の高いプライマーを設計して原虫感染簡易検出法を確立した。また、現場での簡便なプロトコールを確定することができた。本検出法を用いて大量増殖施設イモゾウムシ個体群の原虫感染状況を調査した結果、高率の原虫感染が認められた。 oocystの人工的脱嚢法を検討するため、イモゾウムシin vivo環境とoocyst脱嚢率の変化を調査した。イモゾウムシ幼虫の腸管内はpH6.0~8.0で、経口接種されたoocystは腸管内で接種3時間後から12時間後にかけて速やかに脱嚢し、接種24時間後の脱嚢率は約70%に達した。in vivo環境を疑似してpH調整した各リン酸緩衝液でoocystを処理した後、破砕処理を行って脱嚢率を比較したが、いずれも脱嚢率は約10%と低い値を示した。また、宿主に摂食されたoocystがin vivoで受けるpH勾配の影響も考慮したが、脱嚢率の上昇は認められなかった。In vivoでの本原虫oocystの脱嚢を人工的に再現するには、さらなる検討が必要である。
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