研究課題/領域番号 |
23580079
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
佐々木 哲彦 玉川大学, 学術研究所, 教授 (60235257)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | エピジェネティクス |
研究概要 |
ミツバチとアブラムシのDNAは、昆虫としては例外的にメチル化される。ミツバチでは女王バチと働きバチのカースト分化、アブラムシでは、有翅型と無翅型という多型発現に関与していると考えられる。本課題では、昆虫多型発現のエピジェネティックな制御機構を調べるため、これらの昆虫のゲノムのメチル化の全体像を明らかにし、多型間でメチル化の状態の異なる遺伝子を検索し、遺伝子のメチル化が転写にどのように影響するかを解析することを計画した。 平成23年度は、ミツバチのDNAメチル化パターンをゲノムワイドに解析した。具体的には、働きバチに分化するか、女王バチに分化するかが運命づけられた孵化後4日目の幼虫からDNAを抽出し、次世代シークエンスを利用してゲノムワイドにメチル化の解析を行った。ミツバチのゲノムは約230Mbpで、そこに約900万のCpG配列が含まれる。ミツバチのDNAでメチル化修飾を受けるのはCpGのCだけで、女王バチでも、働きバチでもメチル化されるCpGは10万サイト以下であった。哺乳類ではゲノム中のほとんどのCpGがメチル化されるが、ミツバチでは全CpGの1%程度しかメチル化されず、メチル化される遺伝子は限られていることが明らかになった。また、女王バチと働きバチの比較から、カースト間でメチル化の度合が有意に異なる1,171個のCpGサイトを同定した。遺伝子単位でみると、985遺伝子がカースト間でメチル化の状態が異なるCpGサイトを含んでいた。カースト間でメチル化が異なる遺伝子は1,000個以下であることから、これらの遺伝子から特に重要と考えられるものを選別し、遺伝子レベルでの詳細な解析が可能となった。 アブラムシについては、有翅型と無翅型の個体からDNAを抽出し、次世代シークエンスによる解析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度に計画していた女王バチと働きバチのDNAメチル化パターンの解析を計画通りに実施した。 実際に解析する前は、ミツバチのゲノムが高度にメチル化されていて、女王バチと働きバチでメチル化の異なる部分が無数存在し、その後の研究の方向性を決めかねる可能性があることを危惧していたが、メチル化修飾を受けるのは、全CpGサイトの1%以下で、カースト間で違いの見られるサイトは限られているという結果が得られた。今後の方針を定めるうえで幸運な結果であった。 また、個々の遺伝子に注目したところ、性決定遺伝子の1つであるtransformer2がカースト間でメチル化の状態の異なるCpGサイトを3つ含んでいた。性決定遺伝子がカースト分化にも関与している可能性を示唆する興味深い結果である。 アブラムシの解析は24年度に実施する計画だったが、計画を前倒し、解析に供するDNAを調製して次世代シークエンスに着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ミツバチのメチル化については、23年度に孵化後4日目の幼虫についてゲノムワイドな解析を行い、カースト間でメチル化の状態が異なるCpGサイトを同定した。ミツバチのメス幼虫のカースト分化は、孵化後3日目までは完全に可逆的で、それ以降、不可逆的となる。そこで、23年度の解析で女王バチと働きバチでメチル化の状態がことなっていたいくつかの領域について、孵化後3日目、4日目、5日目での変化を追い、カースト決定過程におけるメチル化の変化の様子を明らかにする。また、transformer2に注目し、働きバチと女王バチでの転写を逆転写定量PCR法で比較する。 アブラムシについては、次世代シークエンスによるメチル化の解析を継続し、シークエンスリードのマッピングまで完了させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
50万円を超える備品として、アブラムシを飼育するために低温恒温器を1台購入する。 その他の研究費は主にアブラムシの次世代シークエンス解析の受託解析費として使用することを計画している。
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