研究概要 |
昆虫類では、同一ゲノムから形態的,機能的に異なる個体が作られるという多型発現がしばしば見られる。ハチやアリの仲間における女王とワーカーのカースト分化、アブラムシの有翅型・無翅型などはその典型的な例である。興味深いことに、これらの昆虫のゲノムは、昆虫としては例外的にCpGサイトがメチル化修飾を受けることが知られている。本研究課題は、ゲノムデータを利用できるセイヨウミツバチとエンドウヒゲナガアブラムシを材料に、DNAメチル化をゲノムワイドに解析し、昆虫の多型発現におけるエピジェネティックな制御機構を明かにすることを目的として実施した。 23年度には、ミツバチの女王バチと働きバチの幼虫のゲノムメチル化パターンを比較するために次世代シークエンスを利用して解析した。この解析により、ミツバチのゲノムに存在する約900万のCpGサイトのうち、メチル化されるのは約1%ほどであることが明らかになった。また、カースト間でメチル化の状態が異なる1,717個のCpGサイトを同定した。24年度には、カースト間でメチル化度の異なるいくつかの遺伝子について、カースト決定期前後におけるメチル化の継時的な変化を解析する一方、アブラムシの無翅個体と有翅個体の比較に着手した。最終年度にあたる25年度は、アブラムシでの解析を進め、最終的に有翅・無翅でメチル化度の異なる226サイトのCpGサイトを同定した。 本研究の最も興味深い成果として、ミツバチの性決定に関わる幾つかの遺伝子のメチル化状態が働きバチと女王バチで違っていることが明らかとなり、カースト分化に性決定遺伝子が関与している可能性が示唆された。
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