研究課題/領域番号 |
23580083
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
高須 陽子 独立行政法人農業生物資源研究所, 新機能素材研究開発ユニット, 主任研究員 (00414912)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 チェコ共和国 / ジンクフィンガーヌクレアーゼ / 遺伝子ターゲッティング / カイコ / セリシン |
研究概要 |
これまでに有効性が報告されているジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)とその標的配列を参考にして、カイコの3種のセリシン遺伝子上に合計6か所の標的候補配列を選び出した。これらの標的配列を特異的に認識すると期待される9組のZFN遺伝子を設計・クローニングし、酵母を用いたアッセイによりDNA切断活性を評価した。その結果、2箇所の標的に対する3組のZFNで切断活性が確認された。これまでのZFNの設計法に比べて改善が見られたものの、それらの活性は効果が確認されているZFNの半分程度であった。DNA切断活性が認められた3組のZFNは、セリシン1遺伝子(Ser1)の第3エクソンの配列を標的とするもの2組およびセリシン2遺伝子(Ser2)の第3エクソン上の配列を標的とするもの1組であった。 現段階でカイコにおける相同組換えは成功していないため、これらの遺伝子をノックアウトする際には、変異個体のスクリーニング法が問題になる。ノックアウト個体はG1カイコの1%未満であると予想されることから、何らかの方法で変異体が高い確率で存在する集団を絞り込む工夫が必要である。そのため、標的配列を上流部分に挿入した蛍光タンパク質遺伝子を持つ組換えカイコの利用を計画した。この組換えカイコの受精卵に標的配列を特異的に切断するZFNのmRNAを注射することで、蛍光タンパク質遺伝子がノックアウトされ、それを指標に本来のセリシン遺伝子がノックアウトされた蛾区を絞り込むことができると期待される。ショウジョウバエで有効性が確認されている標的配列ryを用いて予備実験を行ったところ、蛍光タンパク質遺伝子のノックアウトが確認された。そのため、上記のセリシン遺伝子上の標的配列と蛍光タンパク質遺伝子を組み込んだカイコ系統の作製を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた受精卵を用いたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)の効率評価法は、実効性がないことが確認されたが、一方で酵母を用いた効率評価法が生体内でのZFNの遺伝子切断効率をよく反映することが明らかになり、この方法を用いてセリシン遺伝子を特異的に切断すると期待されるZFNの組を3組得ることができた。 セリシン遺伝子をノックアウトするための課題として、変異個体の特定法があげられる。カイコにおける相同組換えは非常に頻度が低いため、セリシンのノックアウトに利用することは現段階で困難な状況にある。しかし、これまでの実験結果によると、変異体の検出された蛾区では2種類以上の変異体が得られることが多いことから、セリシン遺伝子の標的配列と蛍光マーカー遺伝子を組み込んだカイコによる変異体の絞り込みが可能であると考えられる。有効性の確認されている標的配列とそれを認識するZFNを用いた蛍光マーカー遺伝子のノックアウト実験にも成功していることから、技術的な実効性も確認済みである。現時点で上記組換えカイコの作製に着手しており、本研究は当初の実験計画通り順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
カイコで有効性が確認されているジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)による標的遺伝子のノックアウト効率は、これまでの8回の実験で0-2.1%と大きく変動している。この変動の原因は明らかではないが、今後セリシン遺伝子をノックアウトするためには、少なくとも0.5%の効率が必要と考えられる。初年度に得られたセリシン遺伝子Ser1およびSer2を特異的に認識するZFNは、酵母による効率評価で必ずしも高い切断効率を示していない。そのため、セリシン遺伝子を確実にノックアウトするためには、より高い切断効率を持つZFNの探索が望まれる。そのため、縮重プライマーを用いたZFNのクローニング法と酵母アッセイを組み合わせ、ZFNの最適化を試みる予定である。 一方、セリシン遺伝子ノックアウト個体を絞り込むための組換えカイコについては、引き続き系統化の作業を進め、3系統を作製する。注射実験には任意の1系統を用いるが、遺伝子の挿入位置によりノックアウト効率が異なる可能性があるため、必要に応じて残り2系統も使用する。最適化したZFNのmRNAを上記組換えカイコの受精卵に注射し、蛍光タンパク質遺伝子の発現の有無により蛾区を絞り込み、候補蛾区の5齢幼虫から採取した体液のPCRによりセリシン遺伝子変異個体を特定する。 ただし、遺伝子ターゲッティング法の最近の進歩は著しく、例えばZFNより成功率の高い人工酵素や相同組換えの頻度を上げる手法なども報告されている。これらの情報に注意し、当初の計画にこだわらす、その時点で最も可能性の高い方法を採り入れて本課題を推進する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度はクローニング、アッセイなど小規模の実験が中心であったため、人件費として確保していた予算を使用しなかった。次年度はカイコの飼育や、注射、スクリーニング、遺伝子解析等、時間の制約のある実験や多数のサンプルを処理する実験が多くなるため、初年度と2年目の人件費を合わせて6か月分の人件費を使用する予定である。 次年度交付されるその他の研究費は主に、注射用のRNAを調製するための試薬や、遺伝子抽出・解析用の試薬、プラスチック製品等消耗品の購入のために使用する予定である。
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