研究課題
山形大学農学部のガラス室内で、コシヒカリ(ジャポニカ)、IR72(インディカ)、SY63(ハイブリッド)の3品種を供試して土耕・水耕の2つの栽培実験を行った。土耕栽培では移植後2週目から1、または2週間おきにCH4フラックスを測定した。同時に土壌溶液を回収し、土壌溶液中に溶存した全有機態炭素(TOC)、CH4とCO2量を測定した。水耕栽培では毎週1回培養液交換を行なった。CH4フラックス測定日と同日に水耕栽培したイネを採取し、根分泌物の定量実験(1日処理実験)を行ない、根由来の有機態炭素量を測定した。3品種の全乾物量は水耕・土耕栽培でともにSY63>IR72>コシヒカリの多い順であった。水耕栽培実験から求めた根分泌物量は、1日処理実験日ごとに変動があり、また全生育期間において、株あたりの根由来の有機態炭素量に規則的な傾向は認められなかった。土耕栽培実験では、全生育期間における総CH4放出量は、IR72とSY63が同程度で、コシヒカリより有意に多かった。また、土壌溶液中に溶存したTOC量は、3品種とも生育に伴い増加傾向があり、生育段階にかかわらずIR72とSY63でコシヒカリよりも多かった。同様に、溶存CH4量でも3品種とも生育に伴い増加し、生育前半はコシヒカリ、後半はIR72、SY63が多くなった。さらに、総CH4放出量と植物バイオマス量は正の相関を示していたが、収量に対する総CH4放出量では品種間の差はなかった。以上の結果から、水耕栽培では、根由来の有機態炭素量における品種間の差がなく、土耕栽培からのCH4放出との相互関係は明確ではなかった。土耕栽培では、土壌溶液中に溶存したTOCとCH4の量、または総CH4放出量とは、品種間における違いが認められたが、イネ収量あたりの総CH4放出量の品種間差が認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、最初の研究計画通り、初年度にイネの生育初期に根から分泌される有機態炭素量とその組成の品種間の差異性が明らかになった3品種、すなわち、ジャポニカのコシヒカリ、インディカのIR72、ハイブリッドのShanyou63を用いて、水耕栽培と土耕栽培のポット実験を同時に行なった。水耕栽培実験では、管理上の問題で、有機物を含まない純水使用ではなく、一般的な水道水を使用した。そのため、イネ水耕栽培期間中の有機態炭素の総分泌量を求めることができなかった。しかし、水耕栽培では毎週1回培養液交換を行なった日に水耕栽培したイネを採取し、根分泌物の定量実験(1日処理実験)を行ない、日あたり根由来の有機態炭素量を測定することができた。また、土耕栽培のポット実験では、有機態炭素が少ない(0.5%)砂質土壌を供試し、土壌溶液中に溶存したTOC、CO2とCH4量(主に植物由来の炭素)を測定したので、品種間における総CH4放出量と根の分泌物量の関係も明らかにした。以上のことから、次年度の研究計画は、予定通りに達成したと考えている。
初年度と次年度の研究計画は、予定通りに達成したため、最終年度の研究の推進方策は、変更することがなく、計画通りに進めると考えている。また、根の分泌物量の測定精度を高めるため、培養液中に抗生物質を添加する実験を追加して行なう。
該当なし
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