本研究では,チャの硝酸還元酵素 (CsNR),亜硝酸還元酵素 (CsNiR) と硝酸トランスポーター遺伝子 (CsNRT) の単離および発現特性の解析を行った. CsNR,CsNiRおよびCsNRTについてDegenerate PCRによる新規相同遺伝子の単離を試みた結果,CsNRとCsNiRについては新規相同遺伝子の単離には至らなかったが,CsNRTに関してはシロイヌナズナで単離されているAtNRT1.1,AtNRT1.2およびAtNRT1.5のオーソログと思われるCsNRT1.1,CsNRT1.2およびCsNRT1.5の全長配列獲得に成功した.また,CsNRゲノム配列の解析を行ったところ,これまでにゲノム配列が報告されているいくつかの植物種と同様に,4つのエキソンと3つのイントロンから構成されていた.また,解析の結果CsNRは約16 kbp,CsNiRは約9 kbpであることがわかった. 単離した遺伝子の窒素栄養応答性を調査したところ,これら遺伝子の転写量は硝酸濃度の上昇に伴い増加し,アンモニア濃度の増加に伴い減少する傾向が見られ,チャにおいてもN栄養に応答した転写調節が行われていることが示唆された.また,硝酸を唯一の窒素源として栽培したところ,新葉と根における硝酸含量の有意な増加がみられたが,新芽の生育量および葉色値,新葉と根の全窒素および遊離アミノ酸含量が低下したことから,チャの硝酸吸収同化活性がアンモニアに比べ低いことが確かめられた.さらに,CsNRTsの転写レベルはシロイヌナズナのそれらと比べても低いことが分かった.この他にも,チャ品種間におけるこれら遺伝子の転写量が一部のアッサム系品種において中国種と異なる傾向が見られた. 以上の結果から,チャの硝酸吸収・同化活性が低い原因は,転写調節過程にあり地上部への硝酸輸送が制限されていることに起因することが示唆された.
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