研究課題/領域番号 |
23580089
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
浅川 晋 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50335014)
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キーワード | 微生物 / 土壌学 / 水田 / 有機栽培 / 環境調和型農林水産 |
研究概要 |
冬期湛水を含む有機栽培試験水田圃場を対象に、土壌中の微生物群集を分子生態学的手法により解析し、有機栽培・冬期湛水が土壌微生物の群集構造に及ぼす影響を明らかにするとともに、水田の持続性や生産性、環境保全との調和や生物多様性の保全の面からその影響を評価する。 東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター(宮城県大崎市)の有機栽培試験水田圃場の有機冬期湛水区、有機冬期非湛水区、慣行区を対象として、作土層の土壌を2年間に渡って採取し、細菌、糸状菌およびメタン生成古細菌群集のDGGE解析に供した。メタン生成古細菌については、real-time PCR法により16S rRNAおよびmcrA遺伝子の定量を行った。また、糸状菌およびメタン生成古細菌については主要なDGGEバンドの塩基配列解析を行い、群集を構成する微生物の種類を推定した。さらに、大雪や震災による影響のため23年度にサンプリングを実施できなかった冬期湛水末期の土壌試料を4月に採取し、微生物バイオマスの測定を行った。 糸状菌群集のDGGEパターンには圃場の湛水・落水により若干の変動が見られたが、細菌群集、糸状菌群集およびメタン生成古細菌群集のDGGEパターンは有機冬期湛水区、有機冬期非湛水区、慣行区の間で大きな差はなく、メタン生成古細菌の16S rRNAおよびmcrA遺伝子数には処理区の間で有意な差は認められなかった。また、主要なDGGEバンドの配列解析の結果、糸状菌では子嚢菌類サッカロマイセス綱、メタン生成古細菌ではメタノサルシナ目が優占していることが示唆された。さらに、冬期湛水末期に採取した試料の土壌微生物バイオマス量は有機冬期非湛水区で若干高い傾向にあったが,3区の間で有意な差はなかった。以上より、水田土壌の微生物群集に及ぼす冬期湛水や有機栽培の影響は小さいと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初の計画通り研究が進行している。すなわち、有機栽培試験水田より2年間に渡って経時的に採取した土壌について、各微生物群に特異的な遺伝子を対象とした分子生態学的手法等を用いて各種微生物の群集構成と存在量の変動を調査し、それらに及ぼす有機栽培と冬期湛水の影響が小さいことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの作土層土壌を用いた研究により、有機栽培と冬期湛水が水田の土壌微生物群集に及ぼす影響は小さいことが明らかとなったため、今後は土壌表層や水稲の根圏など部位に焦点を当て、一部養液栽培によるモデル系を取り入れ、各種の微生物群集への影響を解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
微生物の分子生態学的解析に必要な試薬や消耗品類の購入、土壌試料採取や成果発表のための旅費に使用する予定である。
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