研究課題/領域番号 |
23580097
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
淺野 行藏 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50312393)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 腸内細菌 |
研究概要 |
腸内細菌と脂質代謝や肥満が関係する報告がなされている.我々は難消化性オリゴ糖DFAIIIを開発し,その資化性菌としてRuminococcus productus AHU1760をヒトから単離した.本研究では,既知のシンバイオティクスであるフラクトオリゴ糖(FOS) + Bifidobacterium breve JCM1192Tと比較することで,本シンバイオティクスの高脂肪食下における効果の評価した.5週齢のSD系雄ラット36匹を対照群,DFAIIIとR.productus AHU1760の投与群 (DFAIII群),FOSとB. breve JCM1192Tの投与群 (FOS群),さらにそれぞれに標準食の5倍の油を含む高脂肪食群 (HF群,HF+DFAIII群,HF+FOS群)の6群に分け,30日間飼育した. 標準食下でのシンバイオティクス投与によって,盲腸内容物の有機酸量は増加しpHも低下した.高脂肪食下において,HF+FOS群ではFOS群に比べて腸内発酵は低下したが,HF+DFA群では発酵の低下はなかった.糞中胆汁酸は各群間で差は見られなかったが,DFAIII群とHF+DFAIII群ではそれぞれの対照群と比較して,健康リスクの高い二次胆汁酸であるリトコール酸が減少した.血清コレステロールではHF+DFAIII群でHF群よりも減少する傾向であった.盲腸内容物のDNA解析によるクラスター分析では,DFAIII群とHF+DFAIII群がほぼひとつのクラスターを形成した.DFAIIIとR. productus AHU1760の投与は,高脂肪食の条件下においても優れた腸内発酵を示した.血清コレステロールの減少傾向や,高脂肪食投与によっても類似の腸内細菌叢を作り出せる可能性を示したことから,今後肥満や生活習慣病の予防へとつながる効果が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の開発した難消化性オリゴ糖DFAIIIおよび,その資化性菌としてヒトから単離したRuminococcus productus AHU1760をシンバイオティクスとして設定して.一方で,既知のシンバイオティクスであるフラクトオリゴ糖(FOS) とその資化菌である Bifidobacterium breve JCM1192Tとのシンバイオティクス比較する試験を進めている。Bifidobacterium属菌は善玉菌として有名であり、その効果と比較してDFAIIIとRuminococcus属菌のシンバイオティクスは、より顕著な効果を示した。高脂質食を与えたストレス環境において、我々の設定したシンバイティクスはたいへん高い効果を示している。この効果は、胆汁酸組成をLC-MSMSで解析した結果であり、腸内有機酸組成をHPLCで解析し、臨床的血中ファクターを分析した結果である。これらの分析は、本研究を始める前に得ていたプレリミナリーな結果を裏付けるものであり、さらに精度の良い結果でも仮説が実証されつつある。これらの成果は、日本食品科学工学会北海道支部大会2012で口頭発表した。科学雑誌への論文を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
DFA IIIとR. productus AHU1760のシンバイオティクス投与による胆汁酸変換抑制能は非常に高く,糞便中の2次胆汁酸が少ないことは,大腸ガンリスクの軽減につながる.特に,大腸ガンは発症率・死亡者数が最も多いガンの一つである.本研究では,ラットでの胆汁酸変換抑制による大腸ガンリスク軽減の可能性を示したが,ラットは常在菌としてDFA III資化性菌を持っているため,DFA III資化性菌が常在しないヒトを対象とすることで,シンバイオティクスならではの,さらなる効果が発見される可能性も示唆された.高脂肪食とDFAIII+R. productus AHU1760の投与によって,血中コレステロールの減少傾向および糞中コレステロールの増加という結果が得られた.さらに,FOS+B. breve JCM1192Tの投与では,高脂肪食の投与によって腸内細菌叢が影響を受けているという結果が得られたが,一方でDFAIII+R. productus AHU1760の投与では,高脂肪食の投与に関わらず安定した腸内細菌叢を作り出せるという可能性が示唆された.このような点から,今後肥満や高脂肪食に対するDFAIII+R. productus AHU1760のシンバイオティクス効果が期待される.
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度予算は、第一四半期での交付をお願い致します。用途は、消耗品および旅費とする。消耗品は、微生物培養用の培地や器具類、微生物を解析する遺伝子関連試薬および器具類。微生物代謝産物分析用の試薬や器具類などに当てる。旅費は、成果学会での発表、国際学会(デンマーク)、国内学会(兵庫県)(東京)など。H23年度で5000円の未使用財源が発生したが、これは、必要な試薬があったが、この値段では購入できなかったために、H24年度で、この金額にプラスして必要試薬の購入を行う。
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