研究課題/領域番号 |
23580100
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金子 淳 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30221188)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 納豆菌ファージ / 感染補助因子 / 遺伝子発現 |
研究概要 |
(1)φNIT1のゲノム解析と感染補助因子の探索1.φNIT1は155,631 bp の末端繰り返しを持つ直鎖状ゲノムを有していた。orf は 220 個、tRNA 遺伝子は 4 個存在した。アノテーションの結果76 個の orf が既知のファージ遺伝子と相同性を示し、うち 71 個が SPO1-related phages 由来であった。 2.感染時に発現するPghP以外の感染補助因子の探索:アノテーションの結果、本研究のターゲットであるPghP以外の感染補助因子としてフラクタン分解酵素と推定されるorf(levP)を見いだし、その組換え体を作成して活性を確認した。levPはpghP同様ファージの増殖には関与しない遺伝子群からなる領域に存在した。これらの発現パターンをノーザン分析で解析したところ、いずれも感染後期に発現することを確認した。さらに両者とも推定プロモーター領域を2カ所ずつ見いだした。一般に感染後期の発現制御はファージ由来の因子で制御される。その候補として4つの推定シグマ因子をコードするorfを見いだした。本発見は (2)-1における遺伝子発現系の確立の基礎となる。4.宿主認識物質の特定:候補となる推定尾部繊維遺伝子を2つ見いだした。なお3.のφSP50及びその他のφNIT1類似納豆菌ファージのゲノム解析はSP50の一部以外は後述の理由で次年度以降に繰り下げた。(2)pghP及びその他の感染補助因子の発現調節機構の解析1:PghPの発現調節系の解析:推定シグマ因子候補となる4つのorfを見いだした。プロモーター活性をモニターする系として、lacZをレポーターとし、宿主納豆菌ゲノムのamyE遺伝子上に組みこむことでコピー数を限定できるプロモ―ターアッセイ用ベクターを用い、pghPのプロモーターのうち、遠位のプロモーターを組みこんだ株の作成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、ファージ感染下で特定の遺伝子を発現させ、菌の溶菌と共に放出させるタンパク質生産システムを構築するための基礎的技術の開発にある。これまでにφNit1のゲノム解析を完成させ、ファージ感染下で特異的に発現する「感染補助因子」遺伝子をさらにpghPに加えてもう一つlevPを発見した。いずれの遺伝子についてもプロモーター領域を推定し、その領域を発現モニターシステムのためのプラスミドのレポーター遺伝子上流に挿入した。このプラスミドで納豆菌NAFM%株を形質転換して発現モニター株を構築した結果、pghPのプロモーターがファージ感染時のみに発現することが確認できた。タンパク質生産に用いるプロモーター候補の一つが確定したことで計画の最初のチェックポイントをクリアできた。現在、さらに別のプロモーター候補の発現の確認を進めている。また発現調節因子として推定シグマ因子のクローン化も進めている。以上、本研究の23年度に計画されていた「ファージ感染下で特定の遺伝子を発現させる」ための発現系構築の基礎が整いつつある。またφNit1ファージの宿主認識に関わると推定されている遺伝子のクローン化の準備も進めており、φNit1自体に関わる計画はほぼ予定通りに進められている。 一方、本年度のもう一つの柱であったSP50及びφNIT1類似納豆菌ファージのゲノム解析は、震災によるDNAシークエンサーの修理が予想以上に遅れたため、一部領域の配列を確認したに留まった。23年度執行額が少ないのは予定していた塩基配列解析に用いる試薬及びPCR更新を行わなかったことが大きい。
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今後の研究の推進方策 |
まずφNitIのゲノム解析とLevPの発見と活性の確認、及びpghP,levPの発現時期に関する内容で報告にまとめる作業を行う。 今年度は本研究の大目標である「ファージ粒子と共に外来遺伝子を発現させ、溶菌に伴って菌体外に放出させる発現系構築の基礎を作る」を完成させることに重点を置く。そこでpghP及びlevPのプロモーターの発現調節機構の解析を予定通り進める。既に、予想される4カ所のプロモーターのうち一つのモニター系は確立したので、残り3つについて早急にモニター系を確立する。さらに推定発現調節因子のクローン化を進め、それら遺伝子産物により当該プロモーターが制御されているかどうかを確認する段階へと実験を進める。 一方、納豆菌ファージの戦略としての感染補助因子獲得メカニズム、及びみ換えファージ尾部繊維の発現系を構築し、それを用いて納豆菌及び他のグラム陽性菌に対する結合を評価することにより、本ファージの納豆菌とBacillusへの感染に必須な領域を特定を進める。そのためにφNit1類似ファージのゲノム解析では、それらファージにおけるpghP, LevP及びシグマ因子周辺を重点的に解析し、φNitIと比較する。またSP50ファージでは、ゲノムのショットガンクローニングを進める。 以上により病原性ファージが自らの増殖とは直接関係のない感染補助酵素を短時間の間に宿主に生産させる独特な発現調節系の全貌を解明し、従来の細菌を用いたタンパク質生産系とは一線を画する、独創的なタンパク質発現系の確立に結びつける。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度の執行額が少ないのは、震災の影響のよるDNAシークエンサーの修理に時間がかかったため、ファージゲノムの塩基配列解析が計画通りに行えず、それに用いる試薬及びPCRの更新を行えなかったことが大きい。24年度はゲノムシークエンスを本格的に開始するため、まず23年度に執行できなかった関連試薬の購入に充てる。その他、本来24年度以降に計画していた研究のための消耗品購入に充てる。 一方、震災直後には問題がないと思われた機器でも、実際に使用していると不具合を生じるものが出てきた。そこで計画書に計上したPCR及びエレクトロポレーターの更新にのみではなく、計画遂行のために必要な機器について、重要度が高いものから購入することで、目標に向けて研究が行える環境作りを行う。
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